第91話 「空腹で機嫌が悪いのじゃ」←お?

 ――と、止まった。


 ドラゴンの足音が止まり、辺りに一瞬の静けさが戻ってきた。

 が、オレの声が「言葉」として通じたのかどうかは分からない。

 声が脳に響き、驚いて止まっているだけの可能性もある。

 そう思い、オレは引き続き【伝達】での接触を試みる。


『えー、あの……聞こえていたら返事をしていただけますでしょうか?』

『……お主は誰じゃ?』


 つ、通じたあああああああああああああああ!!!

 しかも向こうの言葉も分かるぞ!!


『は、初めまして。オレはこのラテスという星を管理している者です』

『……ラテス? そんな場所は知らん。ここは数千年前から我の領域じゃ。いったい誰に断って入ってきた』

『すみません。まさかドラゴンさんが住んでらっしゃるとは思わず』

『ドラゴンさんとは何じゃ。我の名はファニルじゃ。変な呼び方をするでない。焼き尽くすぞ。我は今、空腹で機嫌が悪いのじゃ』


 空腹状態のドラゴンと対峙するなんて何だこの笑えない冗談。

 でもハクが知能が高いと言っていただけあって、話も聞かずに襲ってくるような相手ではなさそうだ。

 まあ、姿が見えないおかげで助かってるだけかもしれないが。


 ――あ、そうだ。


『空腹なのでしたら、僅かですが食料をもらっていただけませんか? ちょうど試食してくれる方を探していたところで――』

『――ふむ。しかしお主、姿が見えぬが……いったいどこにいるのじゃ』

『ドラ――ファニルさんに食べられたら困るので、今は姿は明かせません。ですが、食料は見えるように置いておきます』


 オレは【アイテムBOX】から、モモリンやオレン、ブカン、肉の実などさまざまな食糧を取り出した。

 足元には、大量の果実が山積みになっている。


 ――まあ、こんなもんか。


「ハク、離れるぞ」

「はいっ」


 オレとハクは少し下がり、念のため鉱物の陰に身を潜めた。


『ファニルさん、そのまま真っ直ぐ進んでいただけますか?』


 洞窟内に、再び地響きのような足音が反響し始める。

 そしてついに、ファニルが姿を現した。


 ファニルは真っ赤な固い鱗のような皮膚で覆われた巨大なドラゴンで、背中には大きな翼が生えている。

 しっぽの先まで合わせると、全長50mはあるように思えた。


『……毒など仕込んでいるのではあるまいな?』

『まさか。そんな姑息なマネしませんよ』

『ならよい』


 ファニルは、少し警戒しつつも、置かれた果実を食べ始めた。

 最初一口食べて一瞬止まり、その後勢いよく一気に最後まで食べきった。

 恐らく100個以上はあったはずだが――


『……お主、名は何という』

『へ? あ、ええと、神乃悠斗と申します』

『カミノハルト。おまえはこの星の守護者だと言ったな?』

『ええ、まあ』

『実は我は、この星の鉱石力を奪うようここに連れてこられた存在じゃ。ドラゴンは燃費が悪いゆえ、食料で足りない分を星の力で補うようできておる』

『――いったい誰に?』


 ――奪うようにってことは、やっぱり誰か、ラテスのことを良く思わないヤツがいるってことか。

 でもオレ、そんな恨まれるようなことしたっけ?

 フィーネをライバル視している名門神族か何かか?


『それは言えん。そういう契約なのでな。でも、もしも我に食料を提供してくれるというのなら、お主と契約してやってもよいぞ』

『契約……?』

『契約すれば、我はお主の従者となる。そしてここから出られるようになり、ダンジョンも消滅する。ここは本来、我の領域じゃからな。このダンジョンは今、特殊な鉱物でこの地のエネルギーを過剰に集めておる。このままでは、星に悪い影響が出るかもしれないぞ』

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