第90話 ドラゴンとの会話を試みるお仕事

 オレとハクがUターンしてダンジョンからの脱出を試みたその時。

 通ってきた道の方から、不吉な獣の鳴き声が聞こえてきた。


 その声はダンジョンに響き渡り、周囲の空気を震わせる。

 どう考えても、可愛い小動物が出す声量ではない。


「は、ハク、今のやつ、何の鳴き声か分かるか?」

「……ど、ドラゴンの鳴き声、に、聞こえましたね」


 ハクの声色から、激しい動揺が感じられる。

 こんなに動揺するのを見たのは始めてだ。

 それはつまり――


「これ、勝てる相手なのか?」

「……分かりません。でも、奥に行けばさらに迷うことになるかもしれませんし、ほかにも何かいるかもしれません。危険です」

「なるほど」


 このままじゃ危ないかもしれない。

 でもいったいどうしたらいい?


 考えろ。

 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。


 神様アイテムは封じられてるし、スキルだって――


 ――いや、スキルはすべてが封じられてるわけじゃない。

 入り口付近から今までずっと、【神の力:光】は使えている。

 ということは、使えるスキルでどうにかできれば、まだ道はある。

 ええと、オレはいったい何ができたんだっけ?


 混乱しそうになる頭を必死で落ち着かせて、ステータス画面を開く。


 名前:カミノ ハルト

 種族:神族

 職業:神様ランクC Lv.399

 スキル:【神様】【理の改変】【神の力】【治癒】【伝達】【解析】【神界への門】

 所有アイテム:【ラテス】【何でもしてくれるモフモフ】【ラテスの地図】【アイテムBOX】【神様カタログ】【救済措置候補者カタログ】【神の書 1~10】【転送BOX:フィーネ】【神殿への門:フィーネ】【上級回復薬】【果実カタログ1~5巻】【薬草カタログ1~3巻】【管理鏡】【透明の飴】

 所有ポイント:∞

 所持金:∞


 さっき【解析】は使えなかったし、【神界への門】使える場所が限られている。

 ここの所有者として認められていないのなら、【神様】と【理の改変】も使えない。

 戦闘になった時に役立ちそうなのは【神の力】と【治癒】くらいか。

 こんなことなら、もっとスキルを磨いておくんだった……。


「ハク、ドラゴンについて分かることを教えてくれ」

「どのドラゴンかで特性も大きく変わってきます。でも共通して言えるのは、知能が高く、何かしらの属性を持ち、ステータスが総じてとんでもなく高いということです」


 ドラゴン最強すぎるだろ……


「――いやでも知能が高いってことは、言葉が通じる可能性もあるのか?」

「ドラゴンに声が届く前に消し炭にならなければ、可能性はあります」

「お、おう。……とりあえずハク、効果があるかは分からないけどこれ食ってくれ」


 オレはハクに残っていた【透明の飴】を食べさせ、自分も飲み込んだ。

 数秒もすると、体に薄い膜のようなものを感じ始めた。

 どうやらこのアイテムは封じられていなかったようだ。


 先ほどからドラゴンの足音が地響きのごとく聞こえていて、こちらに近づいてきているのは確実だ。

 最悪奥に逃げるとしても、万が一別なドラゴンが登場して挟まれれば今より状況が悪くなる。


 ――やるしかない。


『ええー、ドラゴンさんドラゴンさん、聞こえますか?』

「!? ご、ご主人様!?」

「しっ! いいから黙ってろ」


 ハクにも聞こえる形で【伝達】を発動させたため、驚かせてしまったらしい。

 が、ハクは困惑の表情を見せつつもコクコクと首を上下にふり、承知の意を示してくれた。


 ドラゴンの動きが止まり、足音が聞こえなくなった。

 どうやら声が届いたようだ。

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