第89話 所有者不明の不穏なダンジョン

 ダンジョン内の鉱物に手を伸ばしたオレは、バチっという音とともに手に痛みが走り、それに拒絶されてしまった。


「だ、大丈夫ですかっ!?」

「あ、ああ」


 ハクはオレの手を握り、怪我がないかを念入りに確認する。

 怪我はしてなかった。

 が、オレの手を包むハクのしなやかな手の柔らかさと温かさが――


 ――って何考えてんだオレええええええええええ!!!


「僕がついていながらご主人様を危険な目に遭わせてしまうなんて。ごめんなさい……」

「大丈夫だよ。静電気のようなもんだったし、もう平気だから」

「うう、でも……」

「そんな顔すんなって。それよりなんで触れないんだろうな。本来は触っても問題ないはずなんだろ?」

「はい。触れないということは、これは――」


 ハクはそこまで言って、何か考えるように黙り込んでしまった。


「……これは?」

「ご主人様が創ったものではない、ということになりますね」

「え? ええと、つまり?」

「誰かが何らかの方法で、ここにこのダンジョンを設置したということです」


 ――なるほど。

 まあここには精霊もいるし、精霊たちが作った可能性も考えられる。


「じゃあいったん戻って精霊たちに聞いてみよう」

「……いえ、そういう話じゃないんです。星にダンジョンを築くことができるのは、本来その星の所有者だけなんです」

「じゃあフィーネか?」

「それは分かりません。でも――」


 そこまで言って、ハクの表情が曇る。

 どうやらあまり良い状況ではないらしい。


「とりあえずいったん戻るか」


 オレは【転移スポット】をその場に設置し、入口への移動を試みた。

 が、なぜかアイテムの力が発動しない。


「――あ、あれ?」


 何度か試してみたが、いくら転移先を指定しても打ち消されてしまう。

 ほかの【転移スポット】も、すべて無効化されてうんともすんとも言わなかった。

 フィーネに連絡することもできない。

 状況を把握しようとスキル【解析】を使ってみたが、それもダメだった。


 どうやらオレとハクは、このダンジョン内に孤立してしまったらしい。


「……いったい何が起こってるんだ?」

「分かりません。でも嫌な予感がします。普通は、ほかの神様が創ったダンジョン内でも神様アイテムは発動します。これは意図的にブロックされているとしか――」


 ――ハクも状況が理解できてないっぽいな。

 でもいったい誰が?


 この星の元の所有者はフィーネだし、フィーネならダンジョンを創っていてもおかしくない。おかしくないが。

 しかしこんな嫌がらせのようなことをするだろうか?

 それとも何か意味があるのか?


 あいつはいろいろ残念ではあるが、根は素直だし悪いヤツじゃない。

 オレとフィーネ以外でこの星に来た神様はリンネだけだが、ここはリンネの星ではないし、そもそも妹の星にそんなトラップを仕掛ける意味が分からない。


「――とにかく自力で脱出するしかないな」

「どうやらそのようですね。僕も多くの転生者様を導いてきましたが、こんな状況は初めてで……。で、でも、もし何かあっても、ご主人様のことは命に代えても守ります。だから安心してください」


 ハクは緊張感の抜けない声で、それでも必死でそんなふうに言ってくれる。


「うーん、それは嬉しいけど嬉しくないな。大丈夫だよ、モンスターやら何やらはいないんだろ? それならべつに――」


 そこまで言ったその時。

 進んできた道の方から、何かが動く音と風が動く気配がした。そして。


 グオオオォォォオオオォォオ!!!


 どう考えてもヤバそうな獣の鳴き声が反響し、ダンジョンを震わせた。


 いやいやいやいや。

 そんな展開期待してねええええええええええええ!!!

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