第88話 こんなとこにダンジョン、だと!?

 午後。

 オレとハクは要塞都市エクレアのさらに南へと行くことにした。

 途中で休憩を挟むときため、2人でそれぞれ好きな具を入れたおにぎりを作る。

 オレはツナマヨと鮭フレーク、ハクは肉そぼろと明太子だ。


 食品は【アイテムボックス】に入れれば劣化しないため、べつに毎回作る必要なんてないのだが。

 こうして2人で好きな具を選んでおにぎりを作る時間も、オレはとても好きだ。

 ハクもそう思ってくれてるといいな。


「じゃあ、今日も乗せてもらっていいか?」

「はいっ! もちろんです」


 ハクは生き生きとした様子でパッと狼姿に戻り、オレが乗りやすいよう背の位置を下げてくれる。


 人族たちは、ハクが神獣で本来は獣の姿であることを知らない。

 そのため神様アイテム【透明の飴】を買い、2人でそれを食べて気づかれないように移動することにした。

 これを食べると、3時間ほど飴を食べていない住民の目に映らなくなるらしい。


 川を渡り、要塞都市エクレアの横を通過して、そのまままっすぐ南下する。

 左手にはラテスの森が広がっているが、比較的距離があるためここからグノー村やディーネ湖は見えなかった。


 ――が。


「……ん? 何だあれ洞窟か? にしてはやけに人工的に見えるけど」

「? ご主人様が創ったのでは?」

「えー、いや、あんなの創った覚えはないけど……また無意識か?」


 ラテスの森も、元々はオレが無意識の中で生み出したものだ。

 だから今回もそうである可能性もあるけど――


「ちょっと寄ってみてもいいか?」

「分かりました」


 ハクは方向転換し、洞窟の方へと向かってくれた。

 洞窟の前まで来ると、洞窟は思ったよりも大きくだいぶ深くまで続いている。

 中は真っ暗で、入口付近以外の様子がまったく分からない。


「これは……ダンジョンですね」

「ダンジョン!?」

「この星は生き物が生まれない星ですので、モンスターはいないと思います。でも中に入るなら一応気をつけてください」


 ――ええ。

 ど、どうするのが正解なんだ?

 フィーネに聞くか?

 いやでも、あいつは神様活動や星の開拓には干渉しないって言ってたし……。


 オレが無意識の中で生み出したなら、オレの想像を超えるような事態は起こらないはずだ。

 それにモンスターもいないという。

 それなら――


「よし、入ってみよう」

「分かりました。一応、危ないので僕が先に進みます」

「――え。大丈夫か?」

「任せてください。戦闘なら得意ですから」


 頼もしいな!


 オレはスキル【神の力:光】で光を生み出し、意を決してハクとともにダンジョンへと足を踏み入れた。


 洞窟の中は湿度が高く、ひんやりとした空気が漂っている。

 うっかり何か良からぬものが飛び出してきそうな、そんな雰囲気だ。


 ――いやいやいやいや。

 変なこと考えて現実になったらどうすんだ。

 オレは戦闘なんてしたことない根っからのインドア派だぞ!


 足場は案外しっかりしていて思ったほどの歩きづらさはない。

 しばらく行くと、壁や地面のあちこちから色とりどりの水晶のような鉱物が突き出している道に出た。

 鉱物がスキル【神の力:光】を乱反射させてキラキラと輝き、それに伴って周囲の明るさもグッと増していく。


「綺麗だな……」

「そうですね。不思議な空間です」

「というかこれ、さっきからどんどん地下に潜ってないか? いったいどこに続いてるんだ……」

「ダンジョンなので、道は地下に続いているはずです。最下層に降りて行き止まりになるパターンと、どこかに抜けるパターンがあります。でもここがどちらかは」


 まあいざとなったら【カプセルホテル】もあるし、【転移スポット】もあちこちに置きながら歩いている。

 家にはフィーネもいるし、危険さえなければ暗闇が怖いわけでもない。


「まあのんびり行こうか。……この鉱物って持ち帰ってもいいのかな」

「この星にあるものはすべてご主人様のものなので、もちろん問題ないですよ」


 ハクにそう言われ、鉱物に手を伸ばした――のだが。


「――っいっ痛っ!?」

「!?」


 触れる直前でバチっという音とともに手に痛みが走り、オレは鉱物に触れることができなかった。

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