第80話 フィーネの姉が泊まりにきた

 ◆ ◆ ◆


 フィーネがうちに来て2週間ほど経ったある日。

 昼食後いつも通り家でのんびり過ごしていると、1人の女性がやってきた。


「フィーネ! 遊びに来ちゃった」

「ね、姉様!? どうしてここに?」

「母様が様子を見てきてって。はいこれお土産」

「さすが姉様! このハーブティー気になってたのよ」

「そりゃあ姉だもの。フィーネが好きなブランドくらい知ってるわよ」


 どうやらフィーネの姉らしい。

 姉妹仲いいんだな。


「初めまして。フィーネの姉、リンネです。フィーネがとてもお世話になっているみたいで」

「初めまして。神乃悠斗と申します。こっちは相棒のハク」

「……相棒? これってアイテムじゃないの? モフモフよね?」

「人族っておかしいわよね! アイテムなのにハクって名前つけて可愛がってるのよ。おかげでこっちまでモフモフだって忘れそうよ」

「やかましいわ余計なお世話だ」


 おかしそうに笑うフィーネに、姉の前であることも忘れてうっかりツッコミを入れてしまった。

 事実だし文句を言うわけにもいかないが、ハクをアイテムだと言われると何となくイラっとしてしまう。

 たしかに感情表現は下手だけど、でもこいつだってちゃんと感情があって、自分の意思もしっかり持った生き物なのに。


「フィーネ、手がかかるでしょう? 迷惑かけてないかしら」

「いやー、ええと、どうでしょうね。まあどうにかやってますよ」

「ちょっと姉様!? というか君も何よその言い方!!」

「やっぱりハルトさんにも迷惑かけてるのね」


 リンネは困ったようにため息をつく。


「フィーネも、家を離れるならせめて天使を連れていきなさいよ。自分じゃ何もできないでしょう?」

「だって母様が1人で行きなさいって」

「母様が。まあフィーネの成長を願ってのことなんでしょうけど、でもただでさえ手違いで巻き込んだんだから、あんまり迷惑かけるのも申し訳ないわ」

「迷惑なんてかけてないわよ。最近は洗濯だってできるようになったのよ!?」

「……フィーネが?」

「そうよ! 外に干してある洗濯物、私が洗って干したんだからっ」


 フィーネは窓の外を指差し、ドヤ顔で自慢する。

 そんなフィーネに、リンネは少し驚いたような表情を見せた。

 まあ、名門神族は基本的に家事はしないらしいしな。


「すみません。勝手に家事なんてやらせて」

「……いえ、いいのよ。でもフィーネだけ置いて帰るのは心配だし、しばらくここに泊めてもらえないかしら。部屋はフィーネと一緒でもいいわ」

「オレは構いませんが、こんなところにいていいんですか?」

「少しなら平気。私はまだ休みが余ってるし、今のところ特に問題もないから」

「それなら。部屋はフィーネの隣の部屋を使ってください」

「あらいいの? ありがとう助かるわ」


 姉の方はフィーネと違ってまともそうだし、部屋もたくさん余っている。

 1人増えたところで大して変わらないだろう。

 それに、家を離れているフィーネも心が休まるかもしれない。

 ……フィーネに気を張るなんてことがあったとすれば、だけど。


「用があればオレかハクに遠慮なくおっしゃってください」

「ええ、そうするわ」


 こうしてしばらく、フィーネの姉・リンネがうちに泊まることになった。

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