第79話 フィーネの功績と不穏な影
◆ ◆ ◆
――最近、フィーネの様子がおかしい。
フィーネは昔から、姉の私から見ても名門神族として生きるのに向いてなかった。
勉強も訓練も大嫌いで、隙を見ては逃げ出して母様に叱られていた。
星の管理も仕事も適当で、フィーネの管理している星で目立った実績のある星は今まで1つもなかった。
私は、そんなフィーネに救われていた。
上の姉は出来がよく、少し前にランクSの天界神族へと昇格した。
彼女は天才なのだ。
ふわふわと生きているくせに、大事なところをさらっと持っていく。
けれど私は違う。
努力して努力して、それでも姉と比べられて。
母様も父様もそれで怒ることはないし、むしろ私の努力を褒めてくれる。
でも、私が褒められるのは「努力」であって「結果」じゃない。
そんな私でも。
姉様には決して勝てない私でも、フィーネ相手なら話は別だった。
フィーネはこんな家に生まれながら驚くほど天真爛漫かつ自由な性格で。
そんな手のかかるフィーネがいるおかげで、私は「地道にコツコツ頑張れる真面目な子」というポジションを獲得できていた。
実際、実績もフィーネよりはだいぶマシだった。
――まあ本当は、そうなるように私が仕組んでいる部分もあるのだけれど。
姉様の作りかけの救済カタログをこっそり持ち出して、フィーネの目につくところに置いたのは私だ。
昨日、人族を召喚しなきゃいけないのにカタログを友人宅に置いてきてしまったとぼやいていたのだ。
案の定、フィーネはその未完成なカタログを手に取り召喚を行なった。
救済カタログは、それぞれ自分専用のものを使用するのがルール。
なのに姉様のカタログをこっそり使っているのだから、たとえ召喚中に注意が逸れるようなことが起きても、私が陰から大きな物音を立てたとしても、それはすべてフィーネが悪い。
私はフィーネのことが嫌いなわけではないし、妹として大切に思っている。
だから罪悪感がないわけではない。
でも、私だって認められたいし報われたい。
今までうまくやっていたし、これからもうまくやっていく――はずだった。
なのに。
「母様! このモモリンっていう果物を食べてみて! すごいのよ!」
フィーネはある日突然、自身が管理している星で採れた果実を家に持ってきた。
神界は多くの神族や上位精霊が住んでいることでエネルギーに満ちており、おいしい食べ物が豊富にある。
だからそんなものを持ってきたところで、普通は大した感動は生まれない。
でも。
そのモモリンという果実は、本当に驚くほどおいしかった。
甘さと酸味のバランスが絶妙で瑞々しく、程よく固めの食感でありながら噛むとジュワっと果汁が溢れてくる。
最高級のプラムをさらにおいしくジューシーにしたような、そんな味。
しかもモモリンが採れたというその星は、昔フィーネが練習用に使っていたセール品だという。
――あんな練習用にしか使えない欠陥品から、どうしてこんな。
結果、母様も姉様もモモリンをとても気に入り、伝手で次々と販路を拡大し、あっという間に人気商品にしてしまった。
今では仕入れを待つ予約客で溢れ、入ってくると同時に売れていく。
神界以外で生まれたものがここまで神族の人気を得るなんて、神界以外の場所でこんなにおいしい果実が継続的に生産されるなんて、今までに見たことがない。
フィーネがやったことは、それだけ革命的なことだった。
おかげで家の中でのフィーネの株も一気に上がり、今ではすっかり注目の的だ。
――私はこんなに努力してるのに。
ずっとずっと努力してきたのに。
なのにどうしてあんな好き勝手に生きてるフィーネなの!?
ずるい。ずるいずるいずるいずるいずるいずるい!!!!!
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