第78話 ポンコツ女神の奮闘を見守るお仕事

 フィーネと言い争ったあの日から、フィーネもある程度は素直に基礎に従ってくれるようになった。

 まあそれでも思わぬところで失敗することはあるけど。

 でも、何だかんだでみんなでわいわい生活するのは楽しかったし、オレはオレでそんなドジな一面も愛嬌だと思えるようになった。


「どう? 今日の洗濯は完璧じゃないかしら」

「おう。すごいな。やればできるじゃないか」

「フィーネ様すごいですっ」


 家事の上達をドヤ顔で自慢するフィーネに、オレとハクが拍手を贈る。

 こうした光景が日常になっていた。


 ラテス村はもうすっかり村らしくなっているし、要塞都市エクレアの住民たちも徐々にこちらに慣れ始めている。

 初めはレガル王国の嫌がらせで困窮していたが、オレとハクが食料を提供していると知ったラテス村の住民たちが、自分たちもと積極的に援助してくれた。

 そのおかげで結果的に文化交流にも繋がり、親交も深まって、互いに足りない部分を補い合う関係性へと発展していった。


 こういう時に争いに発展しないのも、豊富な資源と食料あってのことだろう。

 また、ラテス村から精霊たちのことも伝わったようで、ラテスの森は「聖なる森」と呼ばれて神聖な場所として扱われた。

 精霊もそんな人族たちのことを大切に考え、生活が潤い繁盛するよう力を貸してくれた。


 もちろん、オレやハクと住民との関係も変わらず良好だ。

 住民たちは、今でも度々収穫物やそれを使ったスイーツやジャム、ドライフルーツなどの加工品を持ってきてくれる。

 どれも素朴で優しい味わいの中にも工夫があり、精霊たちの作るものとはまた違った魅力がある。


「領主様!」

「ん? ああ、ガーネットさんこんにちは。どうかされましたか?」

「ブカンがたくさん採れたので、タルトにしてみたんです。よろしければ領主様とハク様もいかがかなと思い」

「これはおいしそうですね。ありがとうございます。せっかくですしガーネットさんも一緒にいかがですか? お茶を用意しますよ」

「いいんですか? それではお言葉に甘えて――」


 オレとガーネットが話をしていると、そこに自室にいたフィーネがやってきた。

 フィーネが住民と関わることはあまりないため、ガーネットとは初対面だ。


「神乃悠斗、洗濯物はもう取り込んでもいいんだったかし――ん?」

「え、ええと?」

「お客さんかしら。初めまして。私はその――そう、神乃悠斗の友達よ。名前はフィーネ。あなたは?」

「が、ガーネットと申します」


 ガーネットは、フィーネの存在に驚き固まっている。

 この家に、オレとハク以外がいるとは思いもしなかったのかもしれない。


「そう。よろしくね。――って待って。すっごくおいしそうなタルトがあるんですけど! これ、あなたが作ったの?」

「は、はい。よろしければフィーネ様もどうぞ」

「いいの!? 神乃悠斗、食べていいって! それならとっておきのお茶をサービスしてあげるわ。ハク」

「はい。淹れてきます」


 ハクはパタパタとキッチンの方へ向かい、お湯を沸かし始めた。


「あなたはラテス村の人なのかしら」

「ええ、今はラテス村で村長をしています」

「そう。若いのに偉いわね」

「へ? は、はあ」


 ガーネットは20代後半くらいで、見た目年齢はどう考えてもフィーネの方が下だ。

 そんなフィーネにまるで自分の方が年上であるかのように労われ、ガーネットは若干困惑している様子だった。


「……それにしても驚きました。領主様のお屋敷にこんなに美しい女性がいらっしゃるなんて。いえ、ハク様も愛らしいんですけど。まるで女神か何かを見ているような気持ちです」

「そ、そう。まあ私は? 女神じゃなくて人なんだけどね?」


 フィーネは挙動不審になり視線をさまよわせる。

 相変わらず、こういう咄嗟の対応が下手くそすぎるな!

 ただの比喩なんだからありがたく受け取ればいいのに。


「よかったなフィーネ、絶世の美人だって言われてるぞ」

「それはそうよ。当然じゃない。実際美人だもの」

「おいガーネットさん引いてるぞ。恥ずかしいからやめろ」


 こうして2人が出会ったことで、フィーネはラテスやエクレアでいろんな意味で有名になっていくのだが。

 この時はまだ、そんなことは知る由もなかった。

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