第77話 アルミホイルはレンジで加熱するな!

 オレとハクが暮らす家にフィーネが来てから、一週間ほどが経った。

 フィーネの家事能力は驚くほど壊滅的で、正直二度手間でしかない。


 料理をさせれば目分量で変なアレンジを加えて食材を台無しにし、洗濯をさせれば液体洗剤を1本丸ごと入れる始末。

 おまけに掃除であちこちびしょ濡れにし、テーブルを拭かせればコップを倒す。

 このままでは、お気に入りのログハウスが壊されかねない。


「……100人分くらい役に立ってみせるわ!とか言ってたのはどこの誰でしたっけ? 100人分くらい家事増えてるんだけど」

「そんな言い方しなくたっていいじゃない! 君だって最初はポンコツだったでしょ!? モフモフが入った卵を食べようとするし、ポイント少ないのにステーキ食べるし、効率だって最悪だったわ」

「た、食べ――!?」


 ハクが驚いた顔でこちらを見る。ごめん。


「それはおまえが必要な情報渡さなかったからだろ。なんでレシピがあるのに別なことするんだよ! 洗剤だって使用量書いてあるだろ、読めよ!」

「はあ!? そんなだから君は社畜だったのよ! 言われたことをそのままするだけなんて、君に自分の意思はないの!?」

「まずは基礎を学べよ! 基礎がなってないのに余計なことすんなって言ってんだよ馬鹿なのか?」

「――馬鹿ですって!? 名門神族の私に向かって馬鹿とは何よっ」

「あ、あの、2人とも落ち着いてください……」


 ハクが困ったようにオレとフィーネをなだめようと声を上げる。が。


「ハク! ハクはどう思ってるの? どっちの味方なのよっ」

「ええ……ぼ、僕はそんな」

「ハクに八つ当たりすんなよ可哀相だろ。児童虐待で訴えるぞ」

「僕はそんな子どもじゃないですっ><」

「そうよ君こそロリコンで訴えるわよ!」

「誰がロリコンだ人聞きの悪いこと言うな!」


 あまり役には立たなかった。


「……はあ。おまえ、上の神殿に住むか?」

「え?」

「あそこなら天使たちが世話してくれるだろ。べつに生活まで一緒にする必要ないんじゃないかと思って」

「…………どうしてそんなこと言うの? 私だって一生懸命やってるのに」


 えええええ。


「ええ、ちょ、おい。なにも泣くことないだろ」

「君は私のことが嫌いなんでしょ。ハクには優しいのに私にはいつも厳しいじゃないっ」

「べつに嫌いなんて言ってないだろ。これでもおまえに感謝してる面もあるし」

「……とてもそうは見えないわ。どうせ私のこと、幼稚でダメなポンコツ神様だと思ってるんでしょ」

「それは思ってる」

「否定しなさいよっ!」


 ――まあ、神殿で暮らせは言い過ぎたかな。

 除け者にしたと思ったかもしれない。

 ハクもおろおろしてるし、ここは大人になるか。


「悪かったよ。でも、せっかく一緒に暮らすなら普通の暮らしを体験させたいって思ったんだ。おまえはずっと特別な環境にいたし、実際特別なんだろうから、こういう機会でもなきゃ普通なんて経験できないだろ?」

「それはまあ、そうだけど」

「そんなに嫌だったなら謝るよ。家事ももうしなくていい」

「……べつに嫌なわけじゃないわよ」


 なるほど。


「そうか。じゃあもう少し頑張ってみるか? でも普通の生活を送るには、ある程度基礎を理解する必要があるんだよ。おまえだって、不味い飯や洗剤まみれの服は嫌だろ? アルミホイルをレンジで加熱すると発火するのは、おまえのやり方が悪いんじゃなくてある種の理のようなもんなんだ。ボタンを押すタイミングがどうとかそういう次元の話じゃない」

「…………」

「オレは、できることならおまえとも楽しく暮らしたいと思ってる。だからもう少し、とりあえずは基礎を学んでくれないかな」

「……分かったわよ。悪かったわ」


 フィーネは拗ねた様子を見せながらも、ようやく納得してくれた。

 根気強く接すれば、根はいい子なんだけどな……。はあ。

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