第86話 焦るリンネの思い、そして画策【リンネside】

 ◇ ◇ ◇


 ――だめだわ。全然分からない。


 ここはフィーネの召喚した転生者、神乃悠斗が管理している星。

 神乃悠斗は、自分が管理している星の中にログハウスを建て、そこに暮らしている変わり者だ。

 神殿なら掃除もしなくていいし、雑用も天使がやってくれてラクなのに。


 私――リンネは今、訳あってそのログハウスの一室に泊まっている。

 フィーネの様子を見に来た、というのはただの建前。

 本当は、この星の鉱石力がなぜこんなにも急速に増えたのか、なぜモモリンのような最高級クラスの果実があんなにたわわに実るのか、そうした謎を解き明かすために滞在している。


 これさえ分かれば、私だって――!

 怠惰なフィーネでもこのクラスの奇跡を起こせるのなら、その何倍も努力家な私であれば姉様を超えられるかもしれない。


 しかしカギとなっているはずの神乃悠斗は、いたって普通の転生者だった。

 前世についても調べたが、これといった突出した能力もなく、とあるブラック企業で使い潰されて人生を終えている。

 何か特殊な力を持っているとは到底思えなかった。


 ――いったいどうなってるの!?

 これだけ調べても原因がまったく分からないなんて!


 星が実はとても希少な力を持っていた、という可能性も考えた。

 でもこの星は以前フィーネが練習用に使っていたものだし、その練習には姉として私も付き合っている。

 そのときは、こんな不思議なことは何も起きなかった。


 精霊に上位精霊がいないかどうかも確認した。いなかった。

 人族だって、元奴隷と嫌がらせを受けていた要塞都市の住民の2種類。

 どちらもそれなりの文化は持っていたものの、いたって普通の人族だ。

 モフモフのことも疑ったが、そもそもあれはフィーネの所有物で、今までにも何度も転生者に貸し出している。


 モフモフは神獣で、能力はどこを取ってもそれなりに高い。

 それでも所詮は神の遣い。つまり、神に創られた存在。

 星に奇跡を起こすような能力はないはずなのだ。


 モモリンを【神様の土】で量産することはできる。

 というか、実はこっそりやってみた。

 でもあんなにおいしくはならなかった。

 あのおいしいモモリンは、なぜかこのラテスでしか生産できない。


 ――星の秘密を解明できなければ、対処のしようがないわ。

 フィーネも神乃悠斗も、本当に何も分かってないみたいだし。


 フィーネにいたっては、私に「姉様、この星のエネルギーがこんなに増えた理由、分からない?」なんて聞いてくる始末。

 私がどんな思いでここにいるかも知らずに。


 はあ。本当に馬鹿な子。

 相手を疑うってことを知らないんだから。

 一般神族ならそれも悪くないけど、名門神族としては失格だわ。

 いつか身を滅ぼしかねない。


 まあべつに、私はそうなってくれてもいいんだけど。


 ここに来てもうすぐ5日が経つ。

 そろそろ家に戻らなければ、母様や姉様に変に思われかねない。

 それに仕事だってあるし。


 もしもこのまま何も分からないのなら。

 鉱石力のこともモモリンのことも分からないのなら。

 何かしら手を加えて邪魔をするしかない。


 ……とりあえず、残りの1日でできることをしてみるかしら。

 成り上がりとフィーネが相手なら、できそうなことはいくつかある。


 ごめんなさいね。

 でも、フィーネに優秀な神族になられちゃ困るのよ。

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