第85話 テーブルいっぱいのお菓子をみんなで
この日、オレとハクは神界の店をひたすら巡り、ラテスの家に帰宅する頃にはすっかり暗くなっていた。
「ただいま」
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。いいもの買えたかしら」
「おう」
オレは購入したものを一式、テーブルの上に並べる。
買ったのは、
【上級回復薬】×5
【果実カタログ1~5巻】×1
【薬草カタログ1~3巻】×1
【管理鏡】×1
あとは神界のお菓子や果物などの食品類。
【管理鏡】は、所有している星を1つだけ登録して確認できる鏡で、【神鏡】というアイテムの下位に位置するらしい。
天使たちへのお土産も買ったが、それは神殿で渡してきたのでここにはない。
「え、これだけ!?」
「うん」
「半日以上いたのに!? もっと何かなかったの?」
「悪いかよ」
「あのねえ、いくら私の所持金を使いづらいからって、そこまで遠慮しなくてもいいのよ? 私だって一応、それなりの額は持ってるんだから」
フィーネはそう言ってくれたが、正直フィーネの所持金を使うことにはそこまで躊躇いはない。
それにそんなものに手を出さなくたって、今では普通に好きなものを買うくらいできる。
モモリンでそこそこ稼いでるしな!
オレはただ、ハクが言ってくれた「ご主人様のやり方が好き」という言葉に影響されただけだ。
正直、神界を見た時は感動したし、店の商品も魅力的なものばかりだった。
こんな便利なアイテムがあるなら使わない手はないだろうとも思った。
ハクの言葉がなければ、きっと大量買いしていただろう。
「いいんだよ、これで。オレはハクと一緒にマイペースに星を作っていく」
「はあ。そう。まあ君がいいならそれでいいけどね」
フィーネは呆れたような表情でため息をつく。
「そんなことより、神界で買ってきた食品を試食してみようぜ」
「……ねえ、これ、私も食べていい?」
神界生まれ神界育ちならこんなお菓子見飽きていると思ったが、何やらそわそわしながら買ってきたお菓子をチラチラと興味深げに見ている。
「いいけど、なんでおまえがそんな興味津々なんだよ」
「一般神族が食べてるこういうお菓子、うちでは出ないのよ……」
「あー、なるほどな。はいはい名門名門」
「ちょっと何よその言い方! こっちにだっていろいろあるのよ!?」
「はは、冗談だよ。好きなの食っていいぞ」
「本当!? どれにしようかなー」
フィーネは星の形をしたスナック菓子のやキラキラと光るゼリーのような見た目のチョコレート、袋に詰められたグミ、色とりどりのサイダーなどを見比べ、目をキラキラさせている。
――こういうとこは可愛いんだよなあ。
「よし、じゃあ全部開けようぜ!」
「全部!? そんな食べ方、私初めてだわ」
「リンネも呼んでみんなで食えばすぐだろ。呼んできてくれ」
「……姉様、反対しないかしら」
フィーネはそう不安げにしながらも、リンネを連れてきた。
「……ええと、これは?」
「神乃悠斗が買ってきてくれたのよ。それで、試食も兼ねてみんなで食べようって」
「こ、こんなに?」
テーブルいっぱいに広げられたお菓子を見て、リンネは唖然としてオレを見る。
「はいこれどうぞ。一応、取り皿もあった方がいいかと思って」
「……紙? 普通のお皿もあるのにどうして?」
「紙皿と使い捨てのプラスチックコップです。こういう時はやっぱりこれでしょう。お好きなものを好きなだけ取ってください。セルフサービスですよ」
ハクと一緒にキャッキャしながらお菓子を紙皿に移すフィーネとは裏腹に、リンネは戸惑いを隠せないようだった。
「……こういうのはお嫌いでしたか?」
「い、いいえ。ただちょっと、馴染みのない光景だったものだから」
「ほら、姉様も早く食べないとなくなっちゃうわよ!」
「おいひいれす」
リンネは困惑しながらも紙皿にいくつかお菓子を取り、口に運ぶ。
「……おいしい」
「でしょ! なんかジャンクな感じでいいわよね!」
「はは、気に入ってくれたならよかったよ。……お、これすごいな! 透き通ってるのに味は完全にチョコレートだ」
「こっちのスナックも羽のように軽くてサクふわですっ」
最初は戸惑っていたリンネも次第に慣れて、何だかんだで試食会は大盛り上がりとなった。
――みんな喜んでくれてよかった。
お菓子は、ラテスの特産品開発の参考にさせてもらおう。
オレはおいしかったお菓子と果実を強化ガラス端末でリスト化し、次はどんな新商品を開発しようかと、未来のラテスに思いを馳せたのだった。
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