第83話 ドアも窓も電気もないのに明るい隠し部屋
「ハク、神界の店とやらに行ってみようか」
「はいっ! でも、僕も行っていいんですか?」
「フィーネとリンネもいるし、少しくらい大丈夫だろ。以前5日~1週間程度なら離れても大丈夫って言ってたしな。まあでも、一応フィーネに聞いてからにするよ」
「ではお供しますっ」
フィーネに諸々確認したところ、「そういえば言ってなかったわね」と軽く流され、「私がいてあげるから気兼ねなく行ってきなさい」と相変わらずのドヤ顔で留守番を任されてくれた。
こいつ! リンネに怒られろ! でもありがとう!
オレはハクとともに神殿へ行き、まずはリンネが言っていた鏡とやらを探すことにした。
「神界へ行くための鏡があると聞いたんですが、場所が分からなくて」
「えっ! すみません、てっきりご存じだと思ってました。ご案内いたします」
天使が案内してくれたのは、広間から続く階段を上がった先の壁だった。
「――え、あの、壁にしか見えませんが」
「壁に手をかざして、スキル【神界への門】を使用してください」
スキルを修得して言われた通りにすると、壁が波打ち溶けるように穴が開いた。
その先には部屋があり、リンネが言っていたように不自然にカーテンがかかった場所を発見した。
「それではいってらっしゃいませ」
オレとハクが部屋に入ると、壁の穴が塞がり元の状態に戻ってしまった。
ドアも窓もなく、電気をつけたわけでもないのに明るい違和感しかない部屋だが、ハクは何でもないようにしている。
きっと神界では普通のことなのだろう。
かけてあったカーテンを開けると、そこには美しい装飾が施された鏡があった。
縁は重厚感を感じさせる金色で、温かみを感じる不思議な光沢を放っている。
鏡の部分はまるで水のように美しく波紋を作っており、触れればそのまま吸い込まれてしまいそうだ。
「は、ハク、これって帰ってこれるよな?」
「? もちろんです。ここはご主人様の星ですから」
「だよな」
鏡の中に入るなんてホラーでしか見たことがなく、閉じ込められてしまうのではないかと不安を感じてしまう。
「不安なのでしたら、私が先に行きましょうか? ご主人様の許可があれば入れるはずですので」
「……ええと、頼んでいいか?」
「はいっ」
ハクは何でもないことのように鏡に吸い込まれていった。
そしてここにきて気づいたが――
ハクが先に行ったら、オレこの異様な部屋に1人だな!?
オレは慌ててハクの後を追い、鏡の中に飛び込んだ。
鏡を通過する瞬間、水がさらっと肌を掠めるような不思議な感覚があった。
「ご主人様、大丈夫ですか」
「――お、おう」
ハクにそう呼びかけられ、何となく閉じていた目をそろそろと開けてみる。
するとそこには――目を奪われるような世界が広がっていた。
白く輝く美しい建物と石畳、若葉のような葉を揺らす草木、色とりどりに輝く花、どこまでも透明度の高い透き通った小川、神族と思われる白い衣装を纏った男女、そこに付き添う天使たち。
す、すげえ……。
ここが神界の街中なのか。
世界中の美しさを集めたような光景に言葉も出てこない。
というかこんな美しいところにオレなんかがいていいのか?
景観を汚してしまうのでは!?
「お店はいたるところにありますので、街を歩きながら気になったところを自由にご覧になってください。購入したい際には、所持金がそのまま使えます」
「分かった。ありがとう」
正直、べつに神界なんて行かなくてもいいと思っていた。
ただ星の管理の参考になるものがあればいいな、くらいの気持ちだった。
しかし。
この世界を一目見た瞬間から、オレは神界という場に魅了されてしまった。
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