第82話 神族は神界で買い物するもの←初耳なんだが?

「ごめんなさいね、世話のかかる子で」

「ああ、いえ。何だかんだで楽しくやってますから大丈夫ですよ」

「そういえば、あのモモリンという果物、とてもおいしいわよね。最初はどうやって手に入れたの? ハルト君――でいいかしら、ハルト君の元いた世界にもあの果物はないわよね?」


 みんなモモリン大好きだな!?

 いや、オレも好きだけど。


「あれは【理の改変】で木に果実がなるようにしたら、勝手にできたんですよ」

「か、勝手に……?」

「最初はリンゴだと思って食べたんですが、食べたらなんか違うなって。で、モモとリンゴを混ぜたような味だなと思ってモモリンって名付けました」


 改めて人に説明すると、名付け方が安直すぎて恥ずかしい。

 やっぱりもっとちゃんとした名前にすればよかった。


「……そう。オレンとブカンも?」

「ですね。ブカンはあとから発見したんですが、それも基本的には同じです」

「何か特別な肥料を与えたり、そういうことはした?」

「いえ。そこらへんに生えてた木そのままですよ」

「……そう、なのね」

「? 何かあるんですか?」


 フィーネが自室に戻ってしまったため気遣いで投げかけられた質問だと思ったが、リンネは何やら真剣に考えているようだった。


「へ? い、いいえ。特に何もないわよ。でもすごくおいしいから、どうやって作ったのかなって。誕生秘話があれば聞きたくて」

「あー、大した話がなくてすみません……」

「こちらこそ、変なこと聞いちゃってごめんなさいね。それにしても、ハルト君はすごいわよね。うちでも話題になってるのよ」

「いやいやそんな。オレなんてただの元社畜ですよ。フィーネやハクがサポートしてくれたおかげです」


 正直、そんな過大評価されても困る。

 たまたま神様になって、たまたまランクCに上がってしまっただけで、オレ自身は神界の常識すらろくに知らない元人間だ。

 名門神族に話題にされるような存在では決してない。


「フィーネはいいなあ。ハルト君みたいな子に恵まれて。フィーネに困ったら、いつでもうちの子になっていいのよ――なんてね♪」

「あはは。ありがとうございます」


 こんな美しい女性にそんなふうに言ってもらえるなんて、お世辞でも嬉しい。

 フィーネもこれくらい余裕と神々しさがあればなあ。

 ――いやでも、そうなったらそれはもうフィーネじゃないか。


「これからもおいしい商品を期待してるわね。それじゃ、私は仕事に戻るわ」

「はい。じゃあオレもそろそろハクと出かけてきます」

「あら、お出かけ?」

「ええまあ。買い物ついでに村の人たちの様子を見に行こうかなと」

「……ハルト君、もしかしてあなた、人族から物を買ってるの?」


 ――え?


「ええ。さすがにオレとハクだけで賄うには限界がありますし」

「普通、神族は神界で買い物するのよ?」

「え? でもオレ、神界への行き方なんて知らないですし」

「ええ? じゃあ今までずっとこの星の中で買い物を?」

「? はい」

「……ハルト君、あなたはもう立派な神族なの。神族が人族の作ったもので生きていくなんておかしいわ。捧げものは受け取るしかないけど、神界にはもっと質のいいものがいくらでもあるのに。フィーネに聞かなかったかしら」


 聞いてねえ。


「そうなんですね。初めて聞きました」

「ああもう、本当あの子は。ごめんなさいね。本当はランクDになった段階で伝えるべきことなんだけど。フィーネから神殿はもらった?」

「あ、はい。空に浮いてるやつですよね」

「……そう、かしらね。多分それだと思うわ。そこにカーテンがかかった大きな鏡があったでしょう? そこから神界に行けるのよ」


 ――あったっけ。

 カーテンまでは開けなかったし、多分見てないな。


「でもハクも何も言ってなかったような」

「ハクはアイテムだから、鏡の存在には気づけないのよ。これは神族だけが自由に行き来できる特別なものなの。ハルト君が一緒なら、通過することはできるけど」

「ええええ。分かりました。今度見てみます」

「こんな大事なことを伝えてなかったなんて。姉として情けないわ。私からももっとちゃんとサポートしなさいってきつく言っておくわね」

「あはは」


 それはぜひともお願いします。

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