第74話 エクレアの住民が仲間に加わった

「ちなみに、隣国のレガル王国はいったいどこに……」

「救済がなされたのは要塞都市エクレアだけですので、レガル王国は元の位置にあるんじゃないでしょうか」

「……そう、ですか」


 エクレアはほっとした様子で胸をなでおろす。


「あなた方が元の世界に戻りたいのであれば、それも可能です。精霊たちが責任を持ってお戻しします。でももしこの地に住んでいただけるのであれば、オレは歓迎したいと思ってます」

「……植民地化ということか。ここは治安も良さそうですし、レガル王国に取り込まれるよりは幾分」

「いえ。今までどおりご自由に生活していただければ」

「……は? それはいったい、領主殿にどんなメリットが?」

「オレは住民を増やしたいんですよ。ここにはまだ100名ほどしかいないので」

「ふむ……。元の場所に戻っても、攻め落とされるのは時間の問題です。見知らぬ領主殿に土地を借りるのは心苦しいが、どうかこのまま置いてもらえないだろうか。もちろん、相応の対価は納めよう」


 ――よしっ!

 正直対価はべつに必要ないけど――もらわないのも不自然だし、ここはもらっておくか。


「ありがとうございます。では契約成立ということで」

「え!? まだ土地を借りる話しかしていないと思いますが」

「対価はまあ、気が向いた時に持ってきてくれればそれでいいですよ」

「なっ――そんなわけには! それにほかにも決めなければならないことが」

「あー、じゃあ、1つだけお願いしてもいいですか?」

「もちろん」

「あなた方含めた住民全員に、この強化ガラス端末をお配りします。なのでお金を電子マネーに統一しませんか?」


 たしかに、貨幣価値は揃えておかなければ後々トラブルになりかねない。


「き、強化ガラス? でんしま……なんです?」

「金貨や銀貨の代わりに、この端末でお金を管理するんです」

「……申し訳ないが、ちょっと何を言っているのか。詳しく説明してくれますか」

「分かりました」


 こうしてオレは、エクレアに端末の使い方や電子マネーについて説明し、どうにか了承してもらうことに成功した。

 エクレアは、落としてもぶつけても割れない強化ガラスの強さに驚いていた。

 要塞都市にもガラスの文化は存在するが、大変高価で希少なものらしく、そのうえ脆く壊れやすいそうだ。


「せ、せめてその端末代だけでもお支払いさせてください。すぐには無理かもしれないが、必ず支払うと約束します」

「うーん、では万が一の予備も入れて110台で100万マネでどうでしょう? 金貨なら8枚くらいでいいですよ」

「この不思議な力を宿した強化ガラス端末がそんなに安いはずは……」

「ラテス村の住民には無料で配っているので、それ以上はもらえません」

「そ、そうなのか。気前がよすぎて逆に怖いが、そう言うのであれば。それくらいの額ならば今すぐに支払おう」


 エクレアは側近の1人から袋を受け取り、金貨を8枚手渡した。


「ありがとうございます。手持ちの財産やお金を電子マネーに変えたい際には、アイテムBOXに入れて売却してください。自動で相当分の電子マネーに交換されます」


 オレは見本として、目の前にあったモモリンを3つ、強化ガラス端末のアイテムBOXから売却し、マネが増えるところを見せた。


「果実が吸い込まれただと!? こんなに薄いのにいったいどこへ……まるで魔法のようだな」

「精霊たちの力を借りて、そういうシステムが組んであるんですよ。ちなみに売却しなければBOX内に留めておくこともできますよ。出し入れも自由にできます」

「な、なるほど……?」


 分かる。

 正直、オレもいったい何がどうなってこうなるのか微塵も分かっていない。


「まあ、分からないことがあればいつでもここを訪ねてください」

「分かりました。何から何まで、恩に着ます」


 こうして、ラテスに要塞都市エクレアの住民たちが加わった。

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