第73話 要塞都市エクレアの住民がやってきた

 今日はいよいよ、2回目の人族召喚を行なう日。

 オレは予定通り、ラテス村から南下した位置にある川に橋をかけ、その先へと道を伸ばす。

 そしてラテス村の住人に召喚が見られないよう、ハクに認識阻害の結界を張ってもらった。

 今まであまり頼もうと思ったことがなかったが、実はハクもある程度スキルが使えるらしい。


 オレはカタログを開き、スキル【召喚】で人族100名と要塞都市を召喚した。

 都市が丸ごと召喚されれば地響きのような凄まじい音がするのではと心配していたが、そういったことは全くなく、要塞はまるで元々そこにあったかのように鎮座している。

 そしてそこに住んでいる人族たちも、まだ別世界へと召喚されたことに気づいていない様子だ。


「ハク、もういいぞ。ありがとな」

「はい」


 とりあえず、このまま放置して気づくのを待とう。

 気づけば自然とラテス村にたどり着き、そこで交流が生まれるはずだ。

 オレは森を飛び回っている風精霊たちに「何か変化に気づいたら知らせてほしい」と頼み、その場を離れることにした。


 帰宅してハクと昼食をとっていると、風精霊が知らせを持ってきた。

 今、ラテス村の入り口に要塞都市の住民数名がたどり着いたらしい。


 ――思ったより気づくの早かったな。

 隣国の侵略を恐れて、警備を強化していたのかもしれない。


「ラテス村の住民がね、今神様のことを説明してる。多分、もうすぐここに来るんじゃないかな?」

「そうか、お知らせありがとう」

「どういたしまして!」


 風精霊は、様子を伝えるだけ伝えて去っていった。


 数分後、ラテス村の村長となったらしいガーネットという女性が、要塞都市の王とその側近を連れてやってきた。

 要塞都市側の人族は、憔悴しきった様子で周囲を見回している。


 ――そりゃまあ、そうなるよな。


「領主様、今よろしいでしょうか?」

「はい。何でしょう?」

「ラテス村から南下した先にある川にいつの間にか橋が架かっていて、その先にとても一晩では築けないような要塞都市ができていました。こちら方々は、その都市の王とその側近だそうなのですが、これはいったい――」


 ガーネットは、要塞都市の住民を何か良からぬ相手ではと疑っているようだ。


「初めまして領主殿。私はその――この先にある要塞都市エクレアで王を務めているヴァリエ・エクレアです」

「初めまして。私はこの土地の領主を務める神乃悠斗です」


 ヴァリエ・エクレアは、30代半ばくらいの思ったより若い男性だった。

 金髪碧眼で絵に描いたような美青年だ。


「ええと、どう説明したらよいのか……。信じがたい話なのですが、実は気がついたら要塞都市ごとあの場所にあって、ここがどこなのかすら分かっていないのです。こちらには、敵意も侵略意図もありません。どうか信じていただきたい」

「大丈夫ですよ。あなたを信頼します。突然のことで驚かれたでしょう。この国では、時折そういうことがあるんです」

「――え!? ええと、そういう、というのは」


「この先にあるラテスの森には、森精霊、水精霊、風精霊が住んでいます。その精霊たちが、時々困っている人族を救済目的でこの土地に呼び寄せるんですよ」

「……は、はあ」

「あなた方も、何か窮地にいたのではありませんか?」

「……たしかに、隣国の嫌がらせによって国が立ち行かなくなって困っていました。しかしそんな、精霊だなんて。では私たちは、精霊によってこの地に召喚されたというのですか」

「だいたいそういうことです」

「…………」


 ――まあ、突然精霊によって召喚されましたなんて言われても、普通は信じられないよな。


「エクレア様、横から口を挟んでしまい申し訳ありません。しかし領主様がおっしゃっていることは本当なんです。私たちも、奴隷にされていたところを召喚され、救われました」

「…………」


 エクレアは眉間にしわを寄せ、どうしたものかと思い悩んでいる。

 何か危ない宗教団体に捕まったと思っているのかもしれない。

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