第72話 取捨選択することも大事な仕事

 夜、ハクと夕飯を食べ終わったころに再びフィーネが現れた。


「さっきの要塞都市の件だけど――って、おいしそうなもの食べてるじゃない。何それシチュー?」

「だいたい合ってるかな。チンゲン菜のクリーム煮だけど、にんじんも入れようぜってことになってシチューっぽくなった。まだあるけどおまえも食うか?」

「え、いいの? ならいただくわ」


 フィーネはテーブルにつく。

 ハクがフィーネの分をスープ皿に入れ、テーブルに置いた。

 ついでにパンも持ってきて、「よければ」と置く。


 ハクは相変わらず気が利く。

 どこぞの名門神族とは大違いだな!


「……君、今何か失礼なこと思わなかった?」

「いや何も思ってないよ。早く食べないと冷めるぞ」

「……そう? じゃあ、いただきます」


 フィーネは、まずはクリーム煮を口に運ぶ。


「な、何これおいしいっ! これは君が作ったの? ハクかしら」

「今日はオレが作ったけど、ハクも作れるぞ」

「へえ。すごいじゃない。万が一星の構築に失敗したら、2人とも料理人としてうちで雇ってあげるわ」


 フィーネは、クリーム煮もパンもあっという間に完食した。


「それで、要塞都市の件だけどね。星を管理してる神様から許可が出たわ。あの星の神様も、隣国の横暴な絶対王政に困惑してるみたいでね、近々天罰を下す予定らしいの。だからどうせ置いててもなくなっちゃうからって」

「――て、天罰? というかなくなっちゃうってどういうことだ?」

「? 神様には、星の住民が良からぬ行ないをした時に天罰を下す役割もあるのよ。自然災害だったり、疫病だったり、形はいろいろだけど」


 な、なるほど……。


「でも、悪いのは王であって一般市民は関係ないんじゃないのか?」

「それはそうだけど、1人1人選別してられないじゃない? それにあそこは市民も大概なことしてるのよ。国として見た時にマイナス要因が大きすぎるわ。このままじゃ、要塞都市だけじゃなくて全土に影響が及ぶかもしれない」

「まあたしかに、それは困るな……」


 神様として星を管理してると、時にはそういう厳しい決断も必要になってくるということか。

 元人間の身としては、なかなかに辛いものがあるな……。


「【救済措置候補者カタログ】の契約を更新してもらったから、今までどおりスキル【召喚】を使えば要塞都市ごと転移させられるわ。予約しておいたからよそに取られる心配もないわよ」

「おお、分かった。ありがとな。予約ってあのカタログからできるのか?」

「長押しすると、予約とブックマークができる画面が表示されるわよ。環境整備中に取られたら面倒だし、いちいち探すの大変じゃない」


 なん……だと……

 知らなかった。


「取り置き期間はそれぞれだけどね。ひっぱくの度合いも違うし。でもだいたいは数日から100年くらいまでよ」


 だいたいの幅が広すぎる!


「むしろそれ以外って何なんだ?」

「緊急事態だったりすると、数分~数時間単位のものもあるわよ。そういうのは大抵激安だから、ちょこちょこチェックしておくといいわ。まあその分、思った以上に早く状況が悪化して、滅びて救済不可になるケースも多いけど」

「そ、そうか……」


 なんかそう言われると、この【救済措置候補者カタログ】の重要性と緊急性を改めて感じるな。

 オレ含めたどこかの神様が救済召喚しなければ、その星のその種族は絶滅してしまうってことなのか。


「でも、見殺しにしたくないなんて理由で召喚しちゃだめよ。すべてを救うなんて絶対にできないから。自分の星のバランスと、先に呼んでる住民たちのことを最優先に考えなさい。でないと今度は、自分が売りに出すことになるわよ」

「――ぐ。分かった。気をつけるよ」


 そうだよな。

 どこの神様も、べつに売りに出したくて出してるわけじゃないよな。

 今いる住民たちを犠牲にしてしまう事態は、絶対に避けなきゃいけない。


「それじゃ、伝えたわよ。そろそろ帰るわね。クリーム煮とパン、ごちそうさま。おいしかったわ」


 とりあえず、明日午前中に道だけでも整備して、それから召喚しよう。

 川を挟んだ先はまだ未開拓の土地だし、橋がなければ孤立させてしまう。

 道を作るくらいなら自分でもできそうだ。


「ハク、明日も忙しくなるぞ」

「はいっ」

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