第69話 あのとき卵食べなくてよかった
昼食を食べたあと、オレとハクは再び探索を続けた。
しばらく行くと、ついに森が終わり視界が開けた。
森の先にあったのは、緑が美しい広大な草原と大きな湖だった。
その奥には山も見えている。
空は青く晴れ渡り、白く柔らかい綿菓子のような雲が輝いている。
まるで絵画のような光景だ。
「――ここも、オレの星の一部なんだよな」
「もちろんです。ご主人様は、この星の神様ですから」
自分の創造によってできた世界だと頭では分かっていても、そのとても手に負えなさそうな圧倒的な景色を前に、自分がここの神様であることを忘れてしまいそうになる。
1人の人間として、この星の住民として、心が震える。
これがすべてオレの星でありオレの世界だなんて。
本当にそんなふうに思っていいんだろうか?
神様にも慣れてきたと思っていたが、こうして新しい景色を前にするとやっぱり恐れ多いような気がしてしまう。
「だいぶ来たなー」
「そうですね」
「――今、15時半か。もう少ししたら暗くなってくるな」
「そろそろ戻りますか?」
「うーん……いや、今日はこっちに泊まっていこうか。この間、ちょうどいい神様アイテムを見つけたんだよ」
オレはカタログを開き、【カプセルホテル】というアイテムを購入する。
するとそこに、ガチャガチャのカプセルのようなものが現れた。
そしてそのカプセルを開けると――
なんと、立派なホテルが現れた。
「おおお! 思った以上に本格的なホテル!」
「なるほど、これはとても素敵な使い方ですっ」
ハクも隣で拍手をしている。
「こんな美しい草原の大きなホテルを2人で貸し切りかー。贅沢だな」
「まるで名門神族みたいですね」
「そうだな。今度フィーネに自慢してやろう。きっと悔しがるぞ」
「はいっ」
夕飯は、アイテムBOXの中に入れていた食材を使って作ることにした。
ハクに森から木や手ごろなサイズの石を持ってきてもらい、簡易的なかまどを作って火をつける。
そして量産してストックしていた某ステーキの鉄板からバーベキュー用の大きな鉄板を作り、油をなじませる。
「よしハク、今日の晩飯はバーベキューだ」
「バーベキュー!」
ハクの目が一層輝き、期待に満ちていくのが分かる。
同時に耳がピコピコ動いているのはもはや言うまでもない。
「なんかこうしてハクとアウトドア飯作るの久々だな。懐かしい。肉の実が誕生したばかりの頃、よくこうやって肉焼いてたよな」
「そうですね。あの頃は、まさかご主人様がこんなにやり手だなんて正直思ってませんでした。今では、僕が関わった中で一番の神様です」
くっ、こいつ!
嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!
「おまえのおかげだよ。いつも助けてくれてありがとな。そうだ、せっかくだしリゾットも作ろうか。チーズとベーコン、海老、きのこ類、玉ねぎ入りの、前の時より豪華なやつにしよう!」
「わわ! 具だくさんですね!」
「ハクも食材切るの手伝ってくれ」
「はいっ!」
こうしてオレとハクはバーベキューとリゾットを作り、一緒に食べた。
ハクと過ごしてきたこの1年、本当にいろんなことがあった。
最初は訳も分からず召喚され、食べるものもない中で卵(ハク)だけ渡されてどうなることかと思ったけど。
――あの時、卵食べなくてよかったあああああああ!
食べてたら間違いなく詰んでたなこれ!!!
誰もいない、何もない中からよくここまでやってきたな本当に。
人間だった頃も、これくらい積極的に動いていれば社畜として使い潰されることもなくもっと人生を謳歌できたのかもしれない。
でも人間として人生を謳歌してたら、きっと【救済措置候補者カタログ】に名前が載ることもなかっただろうし神様にはなれなかったよな。
そしたらハクとも会えなかったはずだ。
オレ、何だかんだで、今こうしてここにいられてよかったな。
リゾットとバーベキュー(主に肉)をおいしそうに頬張るハクを横目に、オレは心の底から湧き上がる幸せをかみしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます