第67話 どこの世界にもブラックな社会は存在する

 ハクを助けたあと、ハクを連れてほかの精霊たちのテーブルもまわり、改めて一通り挨拶をして話をした。

 精霊たちの持つ能力や得意分野もだいたい把握できたし、今後新たに星を開拓していきたいということ、それを手伝ってほしいということも多くの精霊たちに伝え、了承してもらった。


 ――料理どれもうまかったな。

 フィーネも新たな商品を発掘できただろうか。


 こうしてそれぞれ自由に茶会を楽しみ、夕方前にはお開きとなった。


「な、なんだか疲れました」

「そうね……精霊とこんなに話したのは初めてよ」


「皆さまお疲れ様です。温かいハーブティーをどうぞ。癒されますよ」


 精霊たちが帰ったあと、机に突っ伏して疲労困憊になっているオレたちに、天使がハーブティーを持ってきてくれた。


「ありがとう。おまえらも疲れただろ。片付けはいつでもいいわけだし、ひとまずゆっくりしてくれ」

「ありがとうございます。では少し休憩を取らせていただきますね。何かあればお呼びください」

「ああ、分かった」


 ハーブティーから漂う甘く華やかな香りが、疲れた心と体に染みわたる。

 味はほのかに苦みがあるが、蜂蜜が加えてあって飲みやすい。


「はあ。生き返るわ。やっぱりリラックスしたい時はこれよね」

「へえ。初めて飲んだよ」

「僕も初めて飲みました」

「これは君のいた世界でいうラベンダーのハーブティーよ」

「さすが名門神族はおしゃれな生活してんな。缶コーヒーと栄養ドリンク流し込んでたオレの生活とは大きな違いだ」

「母様がこういうの好きなのよ。精霊たちから直接買ってるお気に入りのがあるから、今度分けてあげるわ」


 ――そうか。

 別な世界には別の精霊たちがいるんだよな。

 あんまり考えたことなかったけど。


「……でも疲れはしたけど、こういうお茶会に参加できたことはいい経験になったわ。みんな気さくないい子たちばかりだし、本当にお茶会を楽しみに来てるのね。会話も自由で羨ましくなっちゃった」

「名門神族には詳しくないけど、貴族みたいなもんだもんな。この前家に行って、おまえも大変なんだろうなと思ったよ。今後も精霊たちとも交流していこうと思ってるし、嫌じゃなければまた声かけるよ」

「い、いいの? 知り合いもできたし、それなら頼もうかしら。――って、もうけっこうな時間ね。私はそろそろ帰るわ」

「おう。じゃあまたな」


 フィーネが帰ったあと、オレとハクはしばらくそのままだらだらして、暗くなる前には2人で茶会の片づけを終わらせた。


 明日から、早速ラテスの構築を始めよう。

 新しい村はラテス村から川を挟んで南下した位置に、森の拡張はちょうどディーネ湖あたりから北へ向かった場所にしようと考えている。

 川を挟むことで村の区域がはっきりとするし、水の確保もしやすくなる。


 次に呼ぶのは、自然災害で困窮している人族だ。

 そこはグランという星にある、人口が300人ほどの小さな独立国家なのだが。

 ある時から雨がまったく降らなくなり、その影響で人口が減って国力もすっかり衰えてしまっている。


 しかし実は、雨が降らなくなったのは隣国が仕組んだこと。

 弱った国を助けるふりをして、手に入れようと目論んでいるのだ。

 今のところ王がそれを拒否しているが、支配されてしまうのも時間の問題だろう。


 隣国は絶対王政を敷いている国で、貴族や役人たちに課せられた重税で村人たちは疲弊している。つまり、決して治安がいいとは言えない。

 要塞都市の中で慎ましくも平和に暮らしていた人々は恐怖に震えている、と書かれていた。


 人を追い込んで従わせようなんて、やり口がブラック企業と同じだ。

 オレはその星の神様ではないし、土地や国まで守ることはできないけど。

 でもせめて、そこに暮らしていた住民だけでも守りたい。


 ――というか、要塞都市ごと転移させればいいのでは?

 それが可能なら村を作る手間もかからないし、何より住み慣れた場所と近い環境に住み続けることができる。

 これは検討してみる価値がありそうだ。

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