第66話 コミュ障女神と人見知りの神獣

「楽しんでるかフィーネ。ぼっち卒業おめでとう」

「なっ――ぼっちじゃないわよ失礼しちゃうわね!」

「へえ、さっき1人でおろおろしてるように見えたけど」

「あ、あれはわざとよわざと! 様子を窺ってたのっ!」


 ――うん。やっぱりこいつはこうじゃなきゃな。

 真っ赤になって強気で言い訳するフィーネを見て、何となく安心感を覚える。


 今まで見てきて分かった。

 こいつは、普通の交友関係を知らずに育ってきたのだろう。

 だから相手とどう接したらいいのか分からず、やたらと上から目線になったり相手を挑発するような態度を取ったりしてしまう。

 要するに、ただのコミュ障だ。


 残念な駄女神であることに違いはないが、根は悪いヤツではないし、根気よく接すれば案外素直な一面も覗かせたりする。


「ねえねえ、フィーネって神様の彼女?」

「あ、それ私も気になってた! すっごい美人さんだよねっ!」


 風精霊たちは、フィーネの周囲を飛びながらキャッキャしている。

 なるほどそういうふうに見えるのか。


「いや、ちが」

「ち、違うわよっ! 誰がこんな無礼な下位の神族なんかと――あ」

「えっ?」


 風精霊たちは、驚いた様子で一瞬動きを止める。


「あー、悪いな。違うんだ。こいつ実は自分が上じゃないと自我が保てないんだ」

「はあっ!? なっ――だ、誰が」

「要はあれだ、残念なコミュ障なんだ。仲良くしてやってくれ」


 オレがそう説明すると、風精霊たちは笑い出した。


「なんだー、ただのコミュ障さんかっ! フィーネかわいーっ!」

「大丈夫だよっ! フィーネがコミュ障でも、私たちはフィーネのこと大好きだからねっ!」

「…………あ、ありがとう」


 フィーネは風精霊たちの無垢な厚意を無碍にできず、悔しさと屈辱に震えながらも大人しく場の雰囲気に従った。


「じゃあ、オレはほかの精霊たちにも挨拶してくるから」

「もうっ! さっさと行きなさいっ」


 フィーネの負け惜しみを背に、オレは女性陣に囲まれているハクの元へ向かった。


「! ご主人様! 申し訳ありません。あの、これは」

「いやいいよ。仲良くやってるようで何よりだ。基本的にはセルフサービスだし、給仕係は天使たちで足りてるからおまえは楽しんでくれ」

「ハクちゃん、本当に可愛いわ~。こんな可愛い子に懐かれてるなんて、ハルト様羨ましい」

「おうちでもたくさんご奉仕してもらってるのかしら~」

「あははっ! こんな可愛い子にご奉仕されたらご主人様もメロメロだねっ」


 言葉選びに悪意を感じる!


「ハクちゃんおうちではどんな感じ? やっぱり甘えてきたりするのかしら」


 シルヴァはハクを抱きしめ、頭を撫でながらそう聞いてきた。


「こ、子ども扱いしないでくださいっ! 僕はこれでも、ちゃんと一人前の神獣なんですっ」

「お肌もスベスベよね~。赤ちゃんみたい」

「赤ちゃんじゃないですっ。多分ですけど、アクアさんより年上ですよっ! 離してくださいっ」


 ハクはシルヴァの腕をすり抜け、逃げるようにオレの背後へと身を隠した。

 しかしそんなハクの行動が、より女性陣を和ませ、ハク推しの心に火をつける。


 ――というか、オレもこういう騒がしいのは得意じゃないんだよな。


 ハクはたまに頑固な一面も見せるが大人しいし、フィーネは残念な駄女神だ。

 こうした社交性低めの子なら、オレも気後れせずに付き合うことができるようになった。


 でもオレだって本来、決して人付き合いがうまい方ではない。

 こうした集団を目の前にすると、思わず尻込みしてしまいそうになる。


 まあ、みんな悪意がないってのは分かってるんだけど。


「そ、そういえば、皆さんが持ってきてくださったジャムやコンポートやハム、とても好評ですよ。精霊が作ったものは極上で体力回復効果もあると人族にも人気なので、ぜひまた商品として扱わせてください」

「まあ、それは嬉しい! ぜひお願いしますわ」

「ハムはほかにもいろんな種類を研究中だから、またよさげなのができたら持っていくよ」

「コンポートは自信作なの。そう言ってもらえて嬉しいわ~」


 背後でハクがホッとしているのが伝わってきた。

 頑張ったな、ハク。

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