第64話 精霊茶会を開催――のその前に

 精霊たちとの茶会当日。

 受付は人族に扮した天使数名に任せ、オレとハクは精霊たちの案内に徹した。

 テーブル1つあたりに10名、森精霊、水精霊、風精霊とすべての精霊が入るようにセッティングしている。


 また、受付ではそれぞれの種族と名前のほか、職業と特技、趣味を記入してもらうことにした。

 これはオレの管理用に使うだけでなく、精霊たちの端末でも見られるようにする予定だ。

 この会では、種族だけでは見えない個々の個性を知りたいし、知ってほしいと思っているためだ。


 開始は11時としていたが、10時半になるとフィーネがやってきた。

 フィーネのほかにも、早くからきて談笑している精霊たちがちらほらいる。


「おう。早いな」

「き、今日はお招きありがとう」

「緊張しすぎだろ。いつもの図々しさはどうした」

「ず、図々しさって何よ! だってこういうの初めてなのよっ! いつもは家族か付き人がいるし、勝手に向こうからやってくるからそれに対応してればよくて……」


 いつになく不安そうにおろおろするフィーネに、ため息しか出ない。

 こいつ実は案外小心者なんじゃなかろうか。


「おまえも最初は一緒にこっち側やるか?」

「こ、こっち側?」

「開催側ってことだよ。知り合いもいないだろうし、1人じゃ寂しいだろ」

「……何をしたらいいの?」

「そうだな……じゃあ持ち寄りのスイーツやら何やらをこっちで預かってるから、いったん家の中で大皿に盛りつけ直して、あっちのテーブルに並べてほしい」


 家の中には天使も2人待機してるし、それくらいなら誰でもできるだろう。


「で、でも私、そういうのやったことなくて――」

「誰だって最初は初めてなんだ。天使たちもいるし大丈夫だよ」

「……分かったわ。やってみる」

「助かるよ、ありがとう。……ハク、ちょっとこっち任せていいか? すぐ戻る」

「承知しました」


 オレはフィーネを家の中のキッチンへと連れて行く。


「悪い、こいつにも手伝わせてやってくれ」

「はい、わかりまし――ってフィーネ様!? そんな、フィーネ様にこんなことさせるなんてできませんっ!」

「私たちでやりますので、フィーネ様はどうぞこちらにお掛けになってお待ちくださいませ。すぐにお茶をお持ちします」

「…………」


 ――なるほど。こういう感じなのか。


「あ、あの、神乃悠斗、私やっぱり……」

「おまえはこういう作業は嫌か?」

「嫌とかじゃなくて、私がいると天使たちが自由にできないのよ。見たら分かるでしょ!?」


 フィーネは困ったようにひそひそとオレに耳打ちしてくる。

 たしかにフィーネは偉い神様だ。

 あの家を見てきたのだから、神界に疎いオレでもさすがに本物だということは分かっている。


 だから無理強いはしてはいけない。

 いくら転生者で神界に詳しくないと言っても、やっていいことと悪いことがある。

 秩序もまた、世界の安寧を保つために必要なものだ。

 でも――


「おまえはどう思ってるんだ? 嫌なら嫌でもいいけど、もし手伝ってくれる気があるならお願いしたい。これは一般神族の茶会だからな。ここに来てる以上、名門神族だってことはいったん忘れていいんだぞ」

「……そう、かしら。なら私もやってみたいし、その……仲間に入れてほしい、です。お邪魔なら無理にとは言わないけど」

「!?」


 天使たちは驚いた様子で、2人で顔を見合わせている。


「――だそうだ。今日はランクや家のことは忘れて、フィーネを仲間に入れてやってくれないか?」


「ふ、フィーネ様とハルト様がそうおっしゃるのでしたら……」

「! い、いいの!? こういうの初めてだけど、できるだけ迷惑かけないように頑張るわ。だからよろしくお願いしますっ」

「こ、こちらこそ!」

「フィーネ様とご一緒できるなんて光栄です」


 天使たちは最初こそ戸惑っていたが、フィーネの言葉を本心だと理解したのか、笑顔で迎え入れてくれた。


「じゃあ、ここは3人に任せたぞ」


 こうしてオレはフィーネを天使たちに任せ、案内の続きを開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る