第61話 異文化交流が生まれ始めたらしい
翌日、オレはグノー村へと向かった。
紅茶とフルーツティーのお礼と、あとは森を充実させるための相談がしたい。
森に関しては、どう考えてもオレより森精霊の方が詳しい。
オレが基礎となる森を創造し、その森を森精霊たちに自由にデザインしてもらうことができれば――きっとその方が圧倒的に迫力のある森が完成する。
「森のデザイン、ですか。面白そうですね」
長老の孫であるアスタに相談すると、快く承諾してくれた。
オレは【記憶ショット】内の画像を見せ、ざっくりとしたイメージを伝えてみる。
「この土地の植物は鉱石力によって維持されるので、倒れた木があったとしてもそれを栄養にはしないでしょうね」
「な、なるほど……」
「ですが、倒れた木に苔を根付かせることはできますよ。木も倒れてしまえばそれ以上に成長することはないでしょうから、ビジュアル的には可能です。苔程度であれば、空気中に漂う鉱石力で問題なく育ちます。緑が増えれば、そこから生まれた力が自然と鉱石力として還元されて、循環が生まれるんじゃないでしょうか」
アスタはその後も、オレにも分かるよう1つ1つ丁寧に説明してくれた。
広さにもよるが、一週間もあればそうしたエリアを作り上げられそうだ。
一応、あとでフィーネにも話を聞いてみよう。
オレはアスタと一通り話をして、帰りにシルヴァの店に寄ってお礼を言い、ジャムを含めた瓶詰めとドライフルーツ、焼き菓子、それからハクの好物であるビーフジャーキーとチーズを購入した。
ハクの嫉妬はこちらから見ればただただ可愛いし、べつにハクをないがしろにしていたつもりもなかったが。
しかしきっと寂しい思いをさせてしまったのだろう。
――あんなに献身的に尽くしてくれてるのに、気遣いが足りなかったな。
これからはもうちょっとハクのことを考えて行動しよう。
「ただいま!」
「おかえりなさいませご主人様」
家に着くと、掃除をしていたハクがパタパタと近寄ってきた。
「ハク、はいこれお土産」
「!?」
「ビーフジャーキーとチーズだよ。おまえ好きだろ?」
「大好きです! おいしそうです! い、いただいてもいいんですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます大事に食べます。えへへ」
ハクは嬉しいといつも無意識に耳をピコピコさせるので、とても分かりやすい。
今回も喜んでもらえたようだ。
この可愛い姿で好物がビーフジャーキーとチーズというのも、ギャップがあって何となく可愛いし好きだ。
もっと甘いお菓子とか果物の方が好きそうなのに。
まあ元々は狼っぽい神獣だし、そう考えれば自然なのかもしれないが。
ちなみに飲み物はミルクが一番好きらしい。
でもオレが好きだと言ったからか、紅茶やコーヒーのおいしい淹れ方をシルヴァに習い、フルーツティーなんておしゃれなものまで覚え始めた。
シルヴァとハクは相性もいいらしく、ほかにもジャムの作り方や石鹸の作り方などいろいろなものを習い楽しそうに交流している。
おかげでうちには、放っておいても森精霊の文化が入ってくるようになった。
また、シルヴァと水精霊のアクアも料理という共通の趣味で盛り上がっているらしく、互いの持つ知識やレシピを交換し合っている、とハクが話していた。
水精霊はジャムよりもコンポート派で、このコンポートを入れたお手製のフルーツサイダーは絶品だ。
以前ハクが持って帰ってきてくれたのだが、それからハマってたまに頼んでいる。
風精霊たちは元々あまり料理をする文化がなかったようだが、森精霊や水精霊が料理を楽しむ姿を見て興味を持ち始めている。
まあ、今のところは試食担当らしいが。
オレがラテス村のことを考えたり風景収集に出かけたりしている間、ハクが精霊たちと交流し、情報を仕入れて報告してくれる。
正直オレ1人では手が回らないので、これには本当に助かっていた。
「いつもありがとうな、ハク」
「モフモフとして当然のことです。えへへ」
真っ白でふわふわの髪の毛をそっと撫でると、ハクは気持ちよさそうに表情をとろけさせる。
――ああ、なんか平和だな。
オレは、目の前にある幸せを改めてかみしめた。
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