第59話 絶景スポットを巡るだけの簡単なお仕事

「――というわけで、旅に出てこようと思う」

『君は本当に頑張り屋さんよね。母様も言ってたけど、一般神族にしておくのがもったいないわ』

「いや、今まであまりそういうことしてこなかったからさ。オレも見てみたくなったんだよ」


『そう。あ、でも星の管理があることを忘れちゃだめよ。できれば3日以内、長くても5日以内には一旦ラテスに戻ること。いいわね』

「わかった。ちなみに、異界でも神様アイテムやらスキルやらは使えるのか?」

『それは問題ないわよ。【神様】と【理の改変】は所有してる星でしか使えないけど、それ以外なら。あと、行った先の住民に君の姿は見えないから、何を見てもあまり干渉してはだめよ』

「分かった。じゃあ行ってくるよ」


 こうしてオレは、新たに取り寄せた観光ガイドを頼りに地球へと向かった。

 地球と言っても、オレは日本から出たことがない。

 つまりほとんど見知らぬ星も同然なのだ。


 実際、目にする光景の神秘に驚きの連続だった。

 全体が緑に覆われたトンネルや滝と苔と木が幻想的な世界を作り出す島、風化によってできた不思議な形の岩が立ち並ぶ岩山、水面と空が一体となる湖、見渡す限りの崖から洪水のように水が流れ落ちる滝、一面の美しい草原とその背後にそびえる雪山、うねる波のような形状に削られた洞窟、分厚い氷でできた地面の見えない真っ白な南極。などなど。


 ――すげえ。


 どれも自然が作り出した壮大な芸術のようで神々しく、その場に立つと圧倒されて畏怖さえ感じる。

 その途方もない光景を眺めていると、自分があんな会社で追い詰められていたことが馬鹿らしくなってきた。


 地球1つ取ってもこれだけの絶景があるのか。

 オレが行ける範囲にどれだけの星があるのか知らないが、これは――思い切って見に来てよかったな。


 というか写真が撮りたいな!!!

 実際に構築していく時のためにも、資料として持ち帰りたい。

 何かいい神様アイテムかスキルはないものか……。


 オレは、川の浸食によってできた峡谷の中にポツンとある高めの岩場に腰を下ろし、【神様カタログ】をめくってみる。


 ――おお?

 このスキル【記憶ショット】ってなんだ?

 名前どおり、カメラ的なものだと思っていいのか?


 説明欄を確認すると、「残したい記憶を画像データとして残せるスキル」と書かれていた。


 うん、これだな!!!


 オレは【神様用の飴】を食べて早速【記憶ショット】を習得した。

 スキルを発動すると、目の前にうっすらと白い枠のようなものが表示された。

 恐らく、この枠内のものが画像として記録されるのだろう。

 試しにいくつか撮って見直してみる。


 ――おおお。

 驚くほど目で見た風景そのままだな。

 しかも撮影した画像は拡大も可能で、葉っぱの1枚1枚、土の1粒1粒まではっきりと見ることができる。


 オレは今までに行った場所を含め地球のあらゆる絶景スポットを巡り、ひたすら【記憶ショット】で写真を撮りまくって保存した。


【異界への門】で行きたい場所に直行できて、しかも飛行もできるって、旅においてはもはやチートだよな。

 さらにオレの姿は本当に現地人に見えないらしく、人目を気にすることもなく好きな場所を好きなだけ堪能できた。


 ――よし、こんなもんかな。

 帰ったらハクにも見せてやろう。


 フィーネの話では2~3日は離れてもいいとのことだったが、初回だしということで今回は日帰りにすることにした。

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