第58話 【異界への門】で風景収集の旅へ

 翌日、フィーネが改めてお礼を言いにきた。


「昨日はその、ありがとう。君のおかげで助かったわ」

「気にするな。それより無限の所持金をありがとうな!」

「え、あ、そ、それは……」

「うん?」

「…………神様活動、頑張ってね」


 フィーネは涙目でふるふると震えながら、しかし母親が決めた妥協案を反故にするわけにもいかず、悔しそうにそう返してきた。面白い。


「まあ心配するな。おまえが良い子にしてればべつに使い込んだりしねえよ」

「ちょっと待って良い子って何。私君よりずっと年上なんですけど!?」

「でも見た目も中身も子どもじゃねえか」

「な――っ! なんか態度大きくなってない!?」


「……そういえば、この強化ガラス端末でフォルテさんと連絡とれるようにしてもらったんだよなー」

「ああああああっ! 嘘ですそんなことないです神乃悠斗さまああああ」


 そんなオレとフィーネのやり取りを、横でハクが啞然と見ている。

 ハクは昨日の一連の流れを知らないため、いったい何がどうなってこうなったのかと混乱しているようだった。


「ちょっとハク! ハクのご主人様ひどいんですけど! 何とかしてよおおおお」

「ええっ、あの、えっと」

「おい駄女神ハクを困らせるなよ通報するぞ」

「人の親を警察みたいに言わないで! 君のせいで私の人生めちゃくちゃよっ」

「いやどう考えてもそれはこっちの台詞だろ」


 いやー、うん!

 今まで好き勝手振り回してくれたこいつの弱点握ってるって楽しいな!!


「まあでもほら、ラテスの特産物を売れば収入もあるわけだし、悪いことばかりでもないんじゃないか?」

「私の所持金いくらあると思ってるのよっ! そんな果物売ったくらいで帳消しになる額じゃないのよ!」

「へえ。それはいいこと聞いた」

「ああああああ! 私の馬鹿あああああああっ」


 本当にな!

 というか自分で絶賛して売り物にしておいてそんな果物はないだろ。

 くそ。いつか感謝させてやるっ。



 フィーネが帰ったあと、オレは取り寄せた風景写真集を見漁った。

 自然に癒しを求めていた心とは裏腹に、オレは就職してからというものほとんど自然に触れてこなかった。

 家も職場も都心に近く、休日は疲労困憊で寝ているだけで終わった。

 というかそもそも休日がほとんどなかった。


 ――学生時代に、もっとあちこち行っておくんだったな。


 写真を見ながら、実物を見ることはもうできないのだと思うと切なくなった。

 少し前までは、この世界を探索すればきっと見たことのない景色に出会えると思っていた。

 けどそれは間違いで、この世界はオレの想像の域を超えることはない。


 そう考えると、自由に思えていたこの世界が急に窮屈なものに感じた。

 オレはなんでもっといろんな経験をしておかなかったんだ?

 この世界の住人たちは、オレが創ったものしか見ることができないのに。


「……あの」

「うん?」

「今のご主人様なら【異界への門】が使えますよ」

「あ……」


 ハクはオレの心境を読み取ったのか、そう提案してくれた。


 そうだった。

 そういやそんな神様アイテムがあったな。


「それって地球にも行けるのか?」

「はい。ただしご主人様の生活圏だった場所には行けません」

「ああ、いや、未練で行くんじゃないからそういう場所には行かないよ。ちょっと星を構築するにあたって自然を見たいと思ってさ」

「そうですか。それなら問題ありません。地図上の具体的な位置を指定すると、より確実に行きたい場所に行けますよ」


 ラテス村もだいぶ安定してきたし、これからはちょこちょこ風景収集の旅に出よう。

 ハクは――たぶん連れて行けないんだよな。

 でもそれなら、こいつにいい景色を見せるためにも。

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