第56話 処遇はオレ次第らしい

 【神殿への門】をくぐると、そこは大きな門の前だった。

 目の前には美しく整備された広大な庭が広がっている。

 美しい緑の中に咲き誇る色とりどりの花は、まるで宝石のようだ。

 そしてその奥には、オレがもらった神殿とは比べ物にならないほど大きな城がそびえている。


 ――ここがフィーネの実家、なのか?

 あいつ本当に偉い神様だったんだな。


 とりあえず、あの城を目指して行けばいいのだろうか?

 城に近づくとそこには何人かの天使たちがいた。

 恐らく、この家に仕えている天使たちなのだろう。


「あの、すみません」

「はいっ」

「ええと、フィーネさんに呼ばれて来たんですが」

「!? あ、あの、失礼ですがどちら様でしょうか……」

「ええと、神乃悠斗と申します」


 と、そこで。


「神乃悠斗っ!」


 オレに気づいたフィーネが走ってきた。

 フィーネはオレの肩をがしっと掴み、前後に激しく揺さぶりながら泣きつく。


「よく来てくれたわねっ! 変なこと言わないでね。お願いよ!?」

「だから落ち着けって。親に怒られるからって泣きわめくとか子どもかよ。天使たちが見てるぞ」

「君はうちの親の怖さと私がやったことの重さを知らないからそんなことが言えるのよっ」


 いや、うん。知らんけど。

 というかオレ、一応そのおまえがやらかした重罪?の被害者なんだが?


「フィーネ、そんなところで何をしているの?」

「! か、母様……!」

「あら、あなたは……」

「え、あ、初めまして。神乃悠斗と申します」


 フィーネの母親は、フィーネと違ってちゃんとした威厳を感じさせる神様だった。

 1つ1つの所作も非の打ち所がない美しさで、思わず見とれてしまう。


「娘が大変なご迷惑をおかけしたみたいで……どうぞこちらに」

「ああ、いえ、はい。お邪魔します」


 フィーネの母親に案内され、オレとフィーネは応接室へと連れていかれた。

 一度は天使たちがお茶を持ってくるなどしたが、その後部屋にはオレとフィーネ、フィーネの母親の3人だけになった。


「私はフィーネの母、フォルテです。娘の間違いでご迷惑をおかけして、しかもあんな辺境の星に――本当にごめんなさい。謝って済む問題ではないのだけれど、残念ながら元の世界に返すことはできないのです」

「ああ、いや……」


 フィーネはフォルテの横に座ったまま俯き、震えている。

 いつものふざけた雰囲気はまったく感じられない。

 フィーネがこれだけ大人しくなるってことは、よほど怖い親なんだろう。


 ……まあ、そんな親の元でなぜこうなったのかと小一時間問い詰めたいけど。


「一応、あなたの口からも事の経緯を話してもらえるかしら。フィーネが誤魔化しているといけないから」

「はい。ええと――」


 オレは自分が元々地球で暮らしていた人間だったこと、徹夜でデスマ中だったこと、突然頭痛とともに意識が途切れ、気がついたらあの星にいたことなど、経緯をざっくりと説明した。


「あの星は生物が誕生しない不完全な星で、安くで売られていたものを昔フィーネが練習用に購入したものなの。あんな場所に転生したてで何も分からない中送り込まれて、さぞかし大変だったでしょう」

「いやー、あはは。まあ最初は驚きましたよ。でもハク――フィーネがくれた【何でもしてくれるモフモフ】が一緒でしたし、2人で協力してやっていくのはそれなりに楽しかったので、今となっては転生できてラッキーだったなー、なんて」

「……それは、フィーネに言わされているのではなくて?」


 さすが親だな鋭い。


「本心ですよ。オレは前世では、いわゆるブラック企業で上司のパワハラに心を抉られて、仲間だと思ってた同僚にも裏切られて、終わらない仕事に追い詰められて、何のために生きてるのか分からない中で生きてました。でもこっちに来てから、こんな自分でもできることがあるんだって嬉しくて」


 フォルテはオレの話を聞いて、何やら考えている。

 一応割と本心の範囲なんだけどな。だめか……?

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