第43話 村に人族がやってきた!!!

 翌日。

 今日はいよいよ、村に人族を呼ぶことになる。


 ――村、気に入ってくれるといいんだけど。

 まあ少なくとも奴隷としての暮らしよりはマシ、だよな。


 オレは事前に各精霊の長3名を集め、召喚に立ち会ってもらうことにした。

 旧レト王国やベルゴア帝国がどんな場所なのかまったく分からないが、人族と書かれているからには精霊のような力は持っていないはずだ。


「ご主人様、大丈夫ですか?」

「大丈夫――と言い切りたいところだけど、もし危うくなったら助けてくれ」

「はい。もちろんですっ」


「じゃあいくぞ。スキル【召喚】!」


 こうしてついに、このラテスに初の人族が召喚されたのだった。


 が、しかし。

 召喚された人族はよほど酷い扱いを受けていたのか、生気を失い服はボロボロ、体も傷だらけで酷い有様だった。

 皆、手と足には重そうな枷が付けられている。


 ――思った以上にひどいな。

 まずは傷の治療をして風呂に入らせて、着替えさせて、食事を摂らせて、それから――うん、ゆっくり休ませるのが先だ。

 精霊たちを見ると、皆同じことを考えたようで力強く頷いてくれた。


 が、人族たちはひどい怯えようで、安易に近寄ることができない。


「――すみません、ちょっと見ててくれますか?」

「わ、分かりました」


 オレは急いでいったん自宅へ戻り、新たなスキル【治癒】と【伝達】を習得した。

 そして再び、人族が召喚された付近へと戻る。


「初めまして。ここはラテスという、あなた方がいた世界とは別の世界です。ここにいる精霊たちの願いによって、救済が行なわれました」

「…………」


 人族は怯えと困惑が入り混じった表情でこちらを窺っている。

 まあ、突然そんなこと言われても反応に困る、というのは分かる。


「奴隷として虐げられながらも仲間を思いやり生き延びたあなた方に、この地で人として自由に暮らす権利を与えます」

「あ……の……私たちはベルゴア帝国の所有物で、私たちがここにいるとあなた様にご迷惑を」

「それは問題ありません。私には森精霊、水精霊、風精霊がついています。そう易々と侵略などさせませんよ」


『水精霊さん、すみません聞こえますか』

「ひゃいっ!?」

『あ、驚かせてすみません。今、スキルであなたの脳に直接声を届けています。ほかの人には聞こえないよう、答えは念で返してください。今からオレの指示で、奴隷たちの枷を壊することはできますか?』

『え、ええ、水圧で破壊することなら簡単にできます』


 さすが水精霊の長だ。頼りになるな!


「水精霊さん、お願いします」


 水精霊は、オレの言葉で大量の水を宙に浮かせ、それを鋭い無数の刃に変えて人族たちの枷を破壊した。

 そしてオレの【治癒】の力と融合させたミストを生み出し、汚れた体や服の浄化と同時に傷の治療も施した。


 それは一瞬の出来事で。

 みな恐れる暇もなく壊れた枷と傷ひとつない各々の肌を見て、何が起こったのかと呆然としている。


 す、すげえ。水ってすごいんだな。

 って驚いてる場合じゃなかった。


「……村づくりはオレも手伝いますし、精霊たちも手伝ってくれるはずです。ですからどうか、この村の住民になっていただけませんか?」

「……あの、なぜ私たちを? 私たちはベルゴア帝国にすべてを取り上げられ、見ての通り渡せるものも何もありません」

「オレはこの土地の領主になったばかりで、今ここに住んでくれる住民を探してるんです。そこでここにいる精霊たちに探させたところ、ぜひあなた方をと」


 嘘をつくのは心苦しいが、精霊たちを守りながら人族たちを救うためだ。

 頼むから受け入れてくれ――。


「領主さまは、奴隷を住民として住まわせるなどお嫌ではないのですか?」

「オレは身分よりも人間性を重視したいです」

「では本当に、本当に救ってくださるのですか? 奴隷という身分から解放してくださるのですか?」

「ええ、そのつもりです」


 オレがはっきりとそう答えると、人族たちは助かったと理解したのか泣き崩れた。

 やせ細った傷だらけの体を震わせ、男も女も声を上げて泣いている。


 そんな人族たちの姿に、思わずオレも涙ぐんでしまった。

 何となく、社畜だった頃の自分まで救われたような気がした。


 こうしてついに、ラテスに人族が加わった。

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