第42話 時には駆け引きも必要だと思う

 森精霊、水精霊、風精霊が仲間に加わり、ラテスはますます力を増していった。

 正直、こんなに美しい場所は見たことがない。

 川の水はキラキラと輝き、緑は透明感すら感じさせる美しさで、澄んだ風が木々の香りを乗せて空気を浄化していく。

 ハクの言った通り、先に精霊たちを召喚してよかった。


 次はいよいよ人族を呼び込む。

 以前【救済措置候補者カタログ】で見た、5467星の旧レト王国の住民だった奴隷たちを救済する予定だ。

 数は100名と、今までの中では一番数の多い召喚となる。


 ――村は整ってるし、家が建つまでは宿屋もある。

 奴隷なら財産もないだろうから、しばらくはこの星にある資源を自由に使ってもらおう。

 食料も今では豊富だし、これといって困ることもないはずだ。


 ただ、正直言うと、人にはオレもトラウマがある。

 ブラック企業で社畜として生きてきたオレは、毎日のように罵倒され、パワハラを受け、人の醜い部分をこれでもかというくらいに見てきた。

 それに、オレだって欲もあれば自分の都合で嘘をつくこともある。

 疲れれば悪態をつきたくもなるし、通勤中はSNSに会社の愚痴を書き殴っていた。


 絆が強く同国民を家族のように思っている、というのは、まあ神様アイテムに書かれている以上嘘ではないだろうけど。

 しかしちょっとしたことで豹変するのが人間だ。


 ――何か、あと一押し安心感がほしいな。

 でも、奴隷として酷い扱いを受けてきた相手にあまり強くは言いたくない。

 怯えさせるのは本意ではないし、ここに来てよかったと心から思わせたい。

 あと、人族にはオレが神様であることは伏せておきたい。


「……ラテスの森への立ち入りを禁止して、ここが精霊たちの力に守られた土地だというのを強く押してみてはどうでしょう? ご主人様ではなく精霊たちを神格化して、その精霊たちをご主人様が従えている、という形を取れば、安易に何かやらかそうと企てる心配も減るのでは?」

「なるほど、それいいな。さすがハクだ」


 ハクの頭をなでてやると、ほわっと表情を緩ませ、耳をピコピコと上下に動かして嬉しそうにすり寄ってくる。可愛い。


「えへへ。ありがとうございます。でも、【救済措置候補者カタログ】に載っているのは救済価値のある者だけなので、そんなに心配することもないと思いますよ」

「そうか、まあそうだよな。でも森精霊たちもいるし、念のためにハクの案を使わせてもらうよ」

「はいっ!」


 オレは【理の改変】を使って「人族はラテスの森へ入れない」とし、精霊たちに説明してまわった。

 精霊たちも身の安全が保障されると喜び、ハクの案を快諾してくれた。


 ――よし。いよいよだな。

 とりあえず今日はもう遅いし、明日呼ぶことにしよう。


 オレは自宅へ戻り、ハクとともに食事をとって眠りについた。

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