第27話 肉の木の秘密と村づくりの依頼

 オレとハクは、大きいテーブルへと通される。

 そしてテーブルには、焼き立ての香ばしい香り漂うふわふわパンとキラキラ輝く蜂蜜、いろとりどりの野菜が入ったサラダにスープ、そして鉄板の上でおいしそうな音を立てている肉厚のステーキが用意された。


 ――ステーキ!?


「森の精霊って肉は食べないイメージだったんですが、食べるんですね」

「動物を狩ることはしませんが、肉の木から取れる肉は食べますよ」


 どうやらオレが知らなかっただけで、肉の実というのはよその世界にも存在しているメジャーな食べ物(?)らしい。

 ハクは、うちではあまり食べられない肉厚ステーキに目をキラキラと輝かせ、今にも食いつきそうな勢いだ。


「どうぞお好きなものをお好きなだけ召し上がってください。おかわりもありますので遠慮なくおっしゃってくださいね」

「ありがとうございます。では、いただきます」

「いただきますっ」


 ステーキは肉質も柔らかく、ミディアムレアな焼き加減も申し分ない。

 噛むと赤身ならではの濃い肉の味が口の中に広がって、手が止まらなくなりそうだ。

 パンも熱々でふわふわモチモチ、野菜やスープもシンプルなのに素材の持つおいしさがこれでもかと引き出されている。


「すみません、少しお聞きしてもいいですか?」

「はい、なんでしょう?」

「うちにも肉の木があるんですが、実が小さくてここまで立派なステーキはなかなか食べられなくて――何か実を大きくするコツがあるんでしょうか?」


 レベルはだいぶ上がったが、【理の改変】は今も1日1つが限界だ。

 それにあまり不必要に理を改変しまくるのは、何となく気が引ける。

 もし知恵が貸してもらえるのなら、力を使わずに試してみたい。


「これは幹の部分ですよ。幹は実よりも赤身でしっかりした肉質なんです。好みが分かれるところではありますが、私たち森精霊は幹を好んで食べます」

「幹……だと……」


 あの木、幹も食べられるのか!?

 その発想はなかった!!!


「木の皮を剥ぐと、そこに肉の層があります。真ん中あたりには芯があるのでそこは固くて食べられませんが、芯から肉を削ぐように切って焼けばこうなります」

「実は肉の実を見つけたのも偶然で、幹まで食べられるなんて思いもしませんでした。教えてくれてありがとうございます」

「とんでもない! 私たち森精霊は、ハルト様に命を救われたようなものです。ハルト様のお役に立てるのであれば、いくらでもお返ししたいと思っています」


 持て余していた森の一部を提供しただけで、こんなに感謝してもらえるなんて、なんか逆に申し訳ないな。


「あー、じゃあ、1つ大きな仕事を頼んでもいいですか? もちろん報酬は支払います」

「もちろんです! この場所を使わせていただくわけですから、何らかの対価をお支払いしなくてはと思っていました。いったいどんなお仕事でしょう?」

「実は――今オレとハクが住んでいるあたりも村にしようと思っていまして、その枠組み作りのお手伝いをしていただけないかなと……」


 これだけの村をたった3日で完成させる能力と技術は、オレにはないものだ。

 それにただのサラリーマンだったオレが独断で作るより、確実に住みやすい村ができるだろう。


「お安いご用です! 自然のものを活かした環境づくりは私たち森精霊の専門分野ですので、ぜひともお任せください」

「ありがとうございます。急ぎじゃないので、皆さんが落ち着いた頃に」


 こうして、森精霊たちが村づくりの仲間に加わった。

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