第23話 フィーネの力とハクの威厳

「とりあえず、神殿の中を見てみるか」

「はいっ」


 オレはハクとともに門をくぐって庭へ入り、神殿本体の扉の前に立つ。

 そして扉を開けようと手を伸ばすと、扉は自動で開いた。


「すげえ! 最近は神殿も自動ドアなのか」

「このドアはご主人様しか開けられないので、セキュリティもばっちりです!」


 神殿の中に入ると、そこには5名の男女がいた。


「おかえりなさいませご主人様」

「うおっ!?」

「この方々は、ご主人様のお世話やお手伝いをしてくれる天使たちです。簡単に言うと、ご主人様に仕える使用人です」

「な、なるほど!?」


 まさか使用人がセットになっているとは思いもしなかった。

 オレが玄関でうろたえていると、天使の中の1人が一歩前へ出て両ひざをつき、手を前に組んで話し始めた。


「本日よりご主人様にお仕えすることになりました、統括のユイナと申します。ご用がありましたら、何なりとお申し付けください」

「え、ええと……神乃悠斗です。よろしく」

「ご主人様は神様になられてまだ日が浅いので、神殿の管理はあなたたちにお任せすることになると思います。ご主人様が神様活動を自由に行えるよう、誠心誠意お仕えしてください」

「承知しました」


 ――そうか。

 そういや、ハクはアイテムでありながら神獣だって言ってたな。


 どうやらここでは、神獣は天使より偉いらしい。

 ハクのいつになく堂々とした振る舞いに威厳を感じ、心にじわじわと焦りのようなものが押し寄せる。


 オレは、神様というポジションでうまくやっていけるんだろうか?

 今までずっとサラリーマンとして、社畜として、底辺社員として、上に従うことで生き延びてきた。

 生まれた時から上位種であるフィーネやハクとは、根本的に違うのだ。


「ご主人様、神殿の中をご案内します。どうぞこちらへ」

「お、おう」


 ハクはいつもと変わらない様子で、一部屋一部屋丁寧に案内してくれた。

 どの部屋も天井が高く豪華な造りになっており、さらに広さも相まって、中にいるだけで自分の小ささを思い知らされる気がする。


 オレはここで神として上に立って、それで本当に幸せになれるのか?

 それがやりたいことなのか?


 フィーネの言っていた「君ならきっとうまくいくわ」というのは、いったいどういう意味だったのだろうか?

 あの「私に任せなさい」という言葉は、信じていいのだろうか?


 オレはハクと神殿の中を見物しながら、不安に押しつぶされそうになっていた。


「……ご主人様? 大丈夫ですか? 少し顔色が悪いように思いますが」

「あ、ああ、いやごめん。大丈夫」

「不安ですか?」

「…………ごめん」


 ああ、最低だ。

 こんな子どもに気を遣わせてしまうなんて。

 やっぱりオレなんかに――


「僕は、ご主人様が神様として君臨する世界ならなにも心配ないと思ってます。転生者として神様になる人間は割といるんです。でも、正式な神族に昇級できるのはごくごくわずかです。それだけご主人様の適正が高かったということですよ」

「そう、なのかな」

「とりあえず、神殿の中も一通り見て回りましたし、いったん降りましょう。これからは神殿と下界、自由に行き来できますよ。すべてご主人様のものですから」


 オレとハクは神殿を出て、元いたログハウスの付近へと戻った。

 ログハウスに入り、素朴な室内と見慣れた家電に囲まれたことで、先ほどまでの不安も少しは和らいだ。


 ――そうだ。ここはオレが創っていく世界なんだ。

 なら、オレにできることをやっていくしかない。

 どうせフィーネも、元人間であるオレに期待なんてしてないだろう。


 そう思い直したまさにその時。

 森の奥から、耳をつんざくようなものすごい轟音が聞こえてきた。


「な、なんだ!?」

「わ、分かりません……。様子を見に行きますか?」


 ハクも思い当たるものが何もない様子で、驚き戸惑っている。

 ここにはオレとハクしかいないんじゃなかったのか?

 隕石でも落ちてきた、とか?


「ご主人様、乗ってください」


 気がつくとハクは狼の姿に戻っており、オレが乗りやすいように背を低くして待機していた。


 ――ぐ。まあ緊急事態かもしれないし、今回はハクに従うのが賢明か。

 オレはハクに飛び乗り、ハクとともに音のした方へと向かった。

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