第22話 「私に任せなさいっ☆」

 フィーネがくれた神殿は、空に浮かぶ小さな島の上にあった。

 島に降り立ち間近から見上げると、改めてその大きさに呆然としてしまう。


「この島も神殿も、神族にしか見えないの。だからあなたが地上に降りない限り、あなたが住民たちに認識されることはないわ」

「な、なるほど。というかオレ、ハクと2人なんだが?」


 神殿は、どう考えても2人暮らしには大きすぎる規模のものだった。


「べつにいいじゃない。大は小を兼ねるって言うでしょ?」

「いやでもほら、掃除とかあるし、オレはあのログハウスで」

「掃除なんて必要ないわよ。ここは神殿よ? フルオートの浄化機能付きだから安心しなさい。ちなみに老朽化することもないし、万が一どこか壊れても自動修復機能で勝手に治るわ」


 な、なんだその超便利機能……。


「こんな神殿、めちゃくちゃ高いんじゃないのか?」

「まあね。でも私の財力をもってすれば、これくらい何てことないわよ」


 フィーネはそう、ドヤ顔で胸を張る。


「……あのさ、おまえはなんでオレにそこまでしてくれるんだ? ハクから聞いたけど、普通は最初にアイテムやスキルを渡して終わりらしいじゃないか」

「それは……ほら、私って優しいし? 力も財力も有り余ってるし? べつに私のミスで君の人生が早く終わったことが父様や母様の耳に入ったら怖いから大人しくしててもらおう、なんて理由じゃないわよ」


 あー、そういう。

 つまりこれはあれか。口止め料か。

 まあこいつの両親に会うことがあるのかすら分からないけど。

 でもそれなら――


「なあ、こうやって物を提供してくれるのも有難いけど、どっちかというと今は情報が欲しいんだ。もっと神様として知っておくべきこととか、やるべきこととか、そういうのを教えてくれ」

「君、本当頭固いわね。そんなだからブラック企業に使い潰されるのよ」


 フィーネはため息をつき、憐れみのこもった目でこちらを見る。


「君には、こうしたいっていう理想はないの?」

「理想……?」

「じゃあ分かった。いったん神様だってことは忘れなさい。君はこれから何でもできる自由の身です。そう言われたら、どんな生活がしたい?」


 自由の身――か。


「好きなことを仕事にして、自由に自分のペースで生きていきたい」

「好きなことって例えば?」

「それは――分からない。今まで好きなことなんて考える余裕なかったからな」


「なるほど。分かったわ。私に任せなさいっ☆」

「――え」


 いったい今の会話のどこに分かる要素があったんだ?


「いいからいいから。君ならきっとうまくいくわ。それじゃ、私もやることができたから、今日はこの辺で帰らせてもらうわね。神殿のことで分からないことがあればハクに聞きなさい。情報を追加しておいたから」

「お、おい! ちょっと待――」


 フィーネは言いたいことだけ言うと、返答を待たずにその場から消えてしまった。


 ――ったくあの自由人め!! いや、神だけど!!!


 こうしてオレは、何が何やら分からないまま、何かが起こりそうな予感とともに正式な神族として再スタートを切ったのだった。

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