第16話 チーズリゾットと焼肉と相棒

 ハクが風呂に入っている間に、オレは夕飯の用意に取り掛かることにした。

 先ほどステータス画面を見たところ、今日の作業で風呂用品の買い物分が帳消しになったらしく、差し引きゼロ、つまり12750ptのままだった。

 ちなみに所持金は所持金:7900G。


 ええと、食材は――


 ピザ用チーズ 120g……300pt

 ベーコン 4枚……100pt

 ほうれん草(冷凍) 1袋……200pt

 牛乳 500ml……150pt

 コンソメ(顆粒) 60g……150pt

 オリーブオイル 500ml……700pt


 木べらとお玉はスキルで作ればいいよな。

 ああそうだ、あとトイレットペーパーとティッシュを購入しないとな。


 ――いや、紙は木でできてるわけだし、これもスキルでいけるのか?

 あとで試してみよう。

 こうしてオレは、1600ptで上記の品を手に入れた。


 そういや簡易布団セットもう1つ買えるな。5000ptだっけか。

 せっかくなので追加でこれも購入し、昨日作ったベッドにセットする。

 ベッドが整うと、部屋が一気に充実して見えた。


 調理は、朝作った鉄鍋で。

 油を引いて米を炒め、ベーコン、ほうれん草を加えてさらに炒める。

 そこに水を加えてそこそこ煮込み、牛乳、コンソメ、塩コショウを加えて弱火でじっくりコトコトと米に火を通す。

 最後にチーズを加えてチーズが溶けたら完成だ。


 味は――

 よしっ! うまいっ!

 オレ、料理の才能あるんじゃないか?


 と、そこでちょうどハクが風呂から上がってきた。

 部屋の中まで匂いが届いていたようで、ハクは調理場である庭先へと出てきた。


「何かとてもいい匂いがします……」

「リゾットだよ。あとは肉も焼くから待ってな」

「わわ! とっても豪華なごはんです! 楽しみですっ」


 オレは昼同様、あの牛肉の実を3つほどもいでスライスし、作ったフライパンに油をひいて焼いていく。

 一瞬で周囲においしい肉の香りが満ち始めた。

 塩コショウと、今度はレモンのような果実オレンをカットして添えてみた。


 ちなみにリゾットを入れている器、リゾット用のスプーンは、空いた時間にスキル【神様】でいくつか作っておいた。

 これも木製だから水分が若干心配だが、リゾットは粘度があるし、多少漏れたところで大した問題にはならないだろう。


「おまたせ」


 テーブルに2人分のリゾットと肉を並べると、ハクはパッと目を輝やかせた。


「このオレンは、絞った汁を肉にかけて食べるんだ。酸味がプラスされてさっぱりするぞ。まあ好き嫌いはあるかもしれないから、無理にとは言わないが」

「絞った汁を……。やってみますっ」

「ん。じゃあ、いただきます」

「いただきますっ」


 チーズと牛乳で濃厚な味わいに仕上げたリゾットは、外での調理中に冷えかけた体を芯から温めてくれる。

 自分で言うのもなんだが、店で出してもいいんじゃないか?と思う。


 肉も塩コショウのシンプルながらピリッとした味と肉のうまみにオレン果汁が合わさることで、後味がさっぱりとしていくらでも食べてしまえそうだ。

 こんな異界の未開拓な惑星で、たった2人で、こんな豪華な食事ができるなんてな。

 やっぱ【神様】ってすげえ。


「すごいです。おいしいですっ」

「それはよかった。リゾットはおかわりもあるぞ」

「えっ! いいんですか? おかわりほしいですっ」

「ん」


 ハクもとても気に入ったようで、結局2杯のリゾットをぺろりと完食してしまった。


 人間としてブラック企業で働いていたころは、こんな生活考えもしなかった。

 料理なんてする暇なかったし、帰りにコンビニで弁当や冷凍食品、レトルト食品を買って帰る日々。

 働いて得た金を使う時間もなく、自分は何のためにこんな生活をしているのかと、働く意味も生きる意味も分からなくなっていた。


 ただ、死ねないから、生きているから続けているだけだった。


 それに比べて、今の生活のなんと充実していることか。

 もちろんすべて自分で決めなければならない責任や不安もある。

 でもそれ以上に、久々に「生きている」ことを実感している。

 きっとこれには、ハクの存在も大きく影響している。気がする。


「ハク、一緒にいてくれてありがとな」

「!? そ、そんな! こちらこそ僕のことこんなに大切にしてくれて、ありがとうございますっ」


 オレは改めて、ハクを大切にしていこうと心に誓った。

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