第5話 何でもしてくれるモフモフ

 翌日。

 木にもたれたままいつの間にか眠ってしまっていたオレは、肌にふわふわとした何かを感じて目が覚めた。


 な、なんだ? なんかあったかいぞ?


 そっと目を開けると、そこには――


「――ってうわああっ!」

「おはようございますご主人様」


 そこには白くモフモフとした巨大な狼――のような生き物がいた。

 額には赤い宝石のような何かが埋まっており、ふわふわとした毛並みは極上だ。

 どうやらオレは、このモフモフに包まれて眠っていたらしい。

 おかげで熟睡できたようで、体調も万全だ。


「お、おまえはもしかして……」

「はい。昨日ご主人様が手にしていた卵から産まれた【何でもしてくれるモフモフ】です。今後、誠意を持ってご主人様をサポートさせていただきます」

「お、おう。ちなみにその【何でもしてくれるモフモフ】っていうのは、おまえの名前なのか?」

「いえ、アイテム名です。僕はアイテムなので」


 なるほど!?

 でもずっと【何でもしてくれるモフモフ】ってのも呼びにくいな。長いし。


「名前、つけてもいいかな」

「!? お名前をいただけるんですか!?」

「嫌じゃなければ。これから一緒に暮らしていくなら、名前があった方が便利だろ」

「ほしいですっ」

「よし分かった。じゃあ――ハクなんてどうだ?」


 白いし。なんか神々しくてこいつにぴったりな気がする。


「かっこいい! 僕それがいいです」

「よし、じゃあおまえは今日からハクだ。よろしくな、ハク」

「はい。よろしくお願いしますっ」


 ハクは嬉しそうな声でオレにすり寄ってくる。

 これは――可愛いな!!

 自分に懐いてくる動物ってこんなに可愛いもんなのか。


「ところで、ご主人様はなぜ木の下で寝ていたのですか?」

「あー、実はオレ、まだ何も知らなくてな。昨日突然倒れて、気づいたらここにいて、変な女神に神様になれって言われて。だからどうしたらいいか分からなくて、おまえが生まれるのを待ってたんだよ」

「そうだったんですか。不便な思いをさせてしまってすみません。とりあえず、この姿では会話がしづらいですし、人の姿になりますね」


 ハクはそう言うと、軽くジャンプして一回転する。

 するとポンッという音とともに「よいしょっと」なんて声が聞こえて――


 次の瞬間、そこには白髪の美少女が立っていた。

 美少女が、立っていた。


「えええええええ! おま、女の子だったのか……」

「はい。僕はアイテムなのであまり意識することはありませんが、どちらかと言えばそんな感じです」


 ど、どちらかと言えばって。

 一人称が「僕」だから、てっきり男だと思ってた……。

 というかこんな子を枕にして寝てたなんて!


「ではご主人様! 早速この【完全未開拓惑星】の構築を始めましょうっ」


 ハクはキラキラとした赤い瞳をこちらに向け、前のめりで意気込んでいる。


 ――近くで見ると、こいつめちゃくちゃ美少女だな!?

 透き通るような白い肌にふわふわサラサラの白髪、少し無表情だが媚びない雰囲気もまたそれはそれで――。

 さらに頭には、モフモフ要素をしっかりと残した獣耳が生えている。


 す、すげえ。リアル獣耳って。

 というかこんな可愛い子と2人きりなんて聞いてないんだが!?

 大丈夫かオレ!?


「あの、ご主人様?」


 首をかしげ、邪気の欠片もない瞳で見つめてくるハクに、オレは自身の中に広がりかけた欲求を慌てて排除する。


「あ、ああ、ごめんごめん。ええと、まずは食料と住処を確保したい」

「かしこまりました。では、家づくりから始めましょう」


 こうしてオレは、美少女となったハクとともに神様活動を開始した。

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