2章
「現在のランキングトップは」
「そうだ水上。葵から面白い話聞いたんやけど、ウチも、トウカも体験したあれのこと知ってるんやって?」
「全部は知らないかな……ただ茜のアカウント、東条先輩のアカウントが奪われた時を知ることができれば、もう少しわかるかも」
しんみりとした空気を先に割った茜の問いに、答えではなく二人のアカウントを盗られた時のことを聞く。
その際に先輩がちょっと怒りの赤色を浮かべて、小さく自分の名前を言っていたが、とりあえず触れないで話を続けた。
もちろん二人にとっては思い出したくないことだと思う。でも情報は多い方がいいし、アカウントを取り返すことを考えたら言ってもらうしかなかった。
そのことを伝えると以外にもわかってくれて、先輩は凄く冷静に。茜は、少し震えながら教えてくれた。
――結果として二人とも、道草と同様に襲われて負けていた。
「僕の知り合いも同じだから、襲ってきた人に負けたらアカウントが消える。これが条件だと思うけど、そもそもゲーム内で死んだらリスポーンするはずだよね」
「いやリスポーンはしなかったの。その時はやられていつも通り目の前が真っ暗になって、リスポーン待ちだと思ってたんだけど、いつまでもリスポーンしなくて、気づいたら強制ログアウトしてたって感じ」
「ウチもや」
「そこで再度ログインしようとしたらできなかった」
「そういうことになるね」
強制ログアウトなんて芸当ができるのは、普通に考えて運営しかないはずだ。実際道草も運営を疑っていたほどだし、主犯格が運営であってもおかしくはない。
でもそうだと言い切れないのは、証拠がないのと、二人が見た犯人像が違うこと。
先輩は当時ソロで最強の名を轟かせていたほど戦闘に長けていたのにあっさりと負けたと言っていた。理由は麻痺毒を受けて効果が切れる前に攻撃を食らい続けたから。
その際襲ってきた人の姿は見ているらしいけど、軽装備かつ仮面をしていた上、言葉も交わさなかったから完全には特定できないとのこと。
そして茜が見たのは、今の東条先輩のフィギュアと同じように鎧を全身に身に纏っていて、防御力がけた外れに高いプレイヤーらしい。襲われた時に反撃したのに倒れることを知らず、たじろいだ瞬間に捕まって殴られ続けた。
「唯一、ランキング上位者が狙われるってのはわかってるのに、姿は違うし顔はわからない……犯人の手のひらってわけか」
「そうなるね。茜さんが襲われたのは悔しい限りだけど、試しに運営に問い合わせてもだめだった。ランキング上位者だった人たちが消えてるの知ってるのに、間違って消したんじゃないかとか、復旧は難しいとかで、相手にしてくれなかったよ……」
それはそれで運営の怪しさが増してるけど、考え方を変えたら妥当な対応とも思える。運営にとってプレイヤーが消えることは望ましくないとはいえ、消えた時の痕跡などがない限り、追うことはできないのだろう。
「はあ、ここまで来たからには僕も手伝うって、絶対犯人見つけて取り返すって思ってたのに振り出しか……」
僕が知っていることはあと、『大切な物が消える』とだけ。道草が言っていたそれの本当の意味が分からない今、振り出しに戻ったと思うのが普通だ。
ああもう、色んな事を考えすぎて頭が痛い。
唸りながら両手で自分の頭を抱えてわしゃわしゃしてると、茜が目の前にあったジュースを飲み干して、グラスを強めに置いて口火を切った。
「いや、案外振り出しじゃないかもしれんで」
「……え? そ、その根拠は?」
「葵、タブレットでダメージランキング出してくれ」
その言葉に慌ててタブレットを取り出す葵。画面を付けるや慣れた手つきでフィクロのサイトを表示し、ランキングが載った一覧を映した。
画面に表示された黒いページの表。その一番上に表示されていたPNは「IVI」。恐らくイヴィと読むのだろうか。でもそれが一体どういうことなのかまでは僕にはわからない。
ただ、その名前を見た先輩は凄く顔色が悪くなって手で口を押えて、茜は企むような笑みを浮かべ、葵は困惑の顔を浮かべ二人を何度も見ていた。
「これが一体?」
「ランキング上位者が狙われる。水上がそう言って直ぐ今のランキング見てたんよ、したら」
「トウカ、が、いる……?」
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