「仲直りとこれからの一歩」

 途切れ途切れながら、葵は一生懸命言葉を繋げて、思い出したくない過去を掘り下げて、こうなって欲しくないと伝えてきた。


 正直、葵の過去は聞いているだけで腹立しく、当時僕がそこにいたら花梨ってやつをぶん殴ってるだろう。


もちろん過去に戻るすべは無いからそんなことはできないし、できたとしても別の問題で大事になりかねないから無理だが。


 それでも、葵の言う通り、僕と東条先輩は本当の気持ちで話し合ったことはない。僕の一方的なものはあるけれど、結局は一方的なものだし、酷いことを言いまくった。


 それに先輩の自己中心的な思考はどうしてなのか、理由を知らない。もしも優しさで回りくどくし過ぎて自己中みたいになっていたとしたら、僕はその優しさを踏みにじったことになる。


――そりゃあ、嫌われるな。


 葵の話が終わって沈黙が続き、僕は息を吐いた。こんないい場面を用意してくれたのに何もできないなんて、流石にどうかしてると自分が嫌になったから。


 だから息を吐いて、思いを。感情を声に乗せる。


「「ごめん」なさい!」


 ようやく発した、心からの謝罪。短い言葉だけど、しっかりと反省を乗せて声にした。同時に、静かに聞こえた先輩の声が重なって、思わず先輩の方を見つめる。


 こっちの方は向いてなく、窓の外を見つめていた。窓にうっすらと映る彼女の顔は、今にも泣きそうで、悲しい顔をしている。


 横顔から覗く感情の色は霧が晴れて、隠れていた感情が起きていた。見えるのは悲しみ、後悔を孕んだ青。


 バツがついたような顔を浮かべ、外を見つめたまま、先輩は言った。


「その、ごめん。今まで変な態度とって。どう接したらいいかわからなくて……葵さんが言う通り、私は仲直りしたいってずっと思ってた。でも、もし元に戻ったとして、また私のせいで嫌な思いをしたらって思ったら、凄く嫌で、いっそ嫌われた方がいいかなって……せめてもの償いとして、君にあげたフィギュアはマスターに預けてたの。いつか、君がゲームをやりに来た時に渡してあげてって」


 やっぱり、ハイランダーをマスターが持っていたのは、先輩が預けてたんだ。僕が戻ってくるその時を待って。それに先輩が自分勝手なことばかり言っていたのがようやくわかってきた気がする。


 こんなこと思うのは、普通なら自意識過剰だけど、先輩は本当は、誰よりも僕を心配して、思って。辛い思いは知って欲しくなくて。回りくどく、それでいて自分勝手みたいになっていたんだ。


 さっき思っていたことが本当のこと。つまり、僕は本当に優しさを無駄にして、何も知らないまま怒った。自分勝手が過ぎると。自己中だと。勝手に先輩のことをわかった気持ちになって、先輩を傷つけた。


 葵の話の時と同様に、過去に戻れるならば、今頃僕は僕を殴っているかもしれない。まあできないから後悔してるわけだし、僕は改めて謝罪の言葉を言った。


「そう、だったんですか……こちらこそ、本当にごめんなさい。先輩の気持ち、一切わかってあげられなくて、何もわかってないのにあんなひどいこと言って。最初は自己中すぎる先輩と関わるのもう嫌だって思って、凄く冷たくして、今になって後悔してます。本当は色々と考えてくれていたのに、それを踏みにじるような真似をして、本当にすいませんでした。その、また一緒に、ゲームしてくれますか?」


「……また、前みたいに、なるかもよ……?」


「それでも構わないです」


「……傷つけるかもしれないんだよ……?」


「大丈夫です」


「……今回みたいに、喧嘩しちゃうかもしれないんだよ……?」


「その時は、今みたいにお互いが納得するまでちゃんと話し合いましょう」


 先輩とはまた、最初から。そしてこれからもう一度仲良くなろう。ちゃんとした相棒でいよう。彼女をもう泣かせたりはしない、例え何があっても。


 しんみりとした空気の中、先輩が静かに笑って頷いたのを見て僕はそう思った。

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