「葵の過去。葵の思い」

 中学生の頃。私は今と違って普通に話せていた。元気もよかった。やんちゃで、運動もできて、皆に慕われてた。


 その中でも特別な友達がいてね。花梨って子なんだけど、昔からの仲良しだったんだ。もちろんお姉ちゃんも知ってるし、毎日のように遊んでた。でもあの夏。蝉が凄くうるさかった夏に喧嘩したの。それも些細なことでね。


 喧嘩の内容もよく覚えてる。お揃いのストラップを無くした。ただそれだけなの。もちろん花梨には謝ったし、あの子にとっては些細なことじゃなかったかもしれない。でもたったそれだけで私たちの友情は破綻した。何年も築いてきた絆が簡単に崩れて。何度謝っても無視。


 そして直ぐに色んな噂が広まってった。どれもこれも、私という存在を消すための悪質な嘘偽りの噂。友達のふりをして人の苦しむ顔を楽しんでるとか、隠れて人の悪口を言っているとか、ビッチだとか。昔はいじめっ子で苦しんだ人がいっぱいいるとか、そういうね。


 やがてさらに悪質な行為になっていったの。自作自演の演技までして、あの子からぶつかってきたのに、私のせいにされたり、何もしてないのに手を切られたって言って、自分で切った手の傷を私のせいにしたり。


 挙句には他人を使って襲せた。他にも思い出したくないことばっかりだけど、色んな事が相まって、私は全てを失った。お姉ちゃんはわかってくれてたけど、他の皆は私を敵扱い。周りもよってたかって私をいじめて。


 そして人を信じることができなくなった。当時はお姉ちゃんも敵だと思ってたくらいには人間不信になって、毎日のように私は私を消そうとした。


 その度にお姉ちゃんが止めてくれたけど、それがなかったら今の私はないかな。


 自傷行為があまりにも酷いから、一度入院したこともあるけど、治らなくて。結局危ないものを置かないようにして家で生活するようになった。その間もお姉ちゃんは寄り添ってくれて、どうにかお姉ちゃんには心を開けるようになったの。


 幸い勉強は得意な方だったから、お姉ちゃんから教えてもらって遅れは取り戻せたけど、やっぱり学校には行けなくて。今は地元を離れて無理のない程度に通信制の大学に通ってるの。同じ学校の人がいない新天地で、心新たに通える方が少しは楽になれるから。


 そういえば、お姉ちゃんは本当は違う大学に行きたがってたの知ってるよ。家にパンフレットあったし。


 でも私のことを考えて私のと同じ大学にしたんだよね。一人じゃあ危ないからって。またあんなことあったら救えないからって、助けてあげられないからって。お母さんと話してたの聞こえてたよ。本当に感謝してるよ。


 あ、ごめん。話しそれたね。まあそれで、通信制の大学に行ってるんだけど、やっぱり人が嫌いなのは変わらなくて、周りの目とか人とか凄く怖いんだ。お姉ちゃんが一緒にいるからまだ耐えれるけど、居なかったらって思うと本当に怖い。


 それでもこうして人と話せるようになったのは、あのゲームのおかげなの。あそこなら見られてるってわかっても実際には見られてないし、攻撃とか受けても少し痛いですむし、気が楽になったんだ。


 そこにトウカが来てライバルとして友達になれた。暫くしてミカミ君が来てトウカと仲いいの見て、羨ましいって思ったの。あんなに人が嫌いだったのに、羨ましいなって。こんなに仲がいい友達がいて、羨ましいなって。


 だからかな。今喧嘩してるって雰囲気でわかったし、私みたいに仲直りできないままになって欲しくないんだ。こんなの私のわがままでしかないけれど、二人には笑っていて欲しいんだ。


 確かに人は馬の合わないところがあるかもしれない。私みたいに些細なことで喧嘩するかもしれない。でも時に笑って泣いて。怒って喜んで。そんな友達って大事だと思うから、大切にしてほしいの。


 今はまだ分かり合えないかもしれない。今はまだ話したくないかもしれない。それでも、お互い心から話してみたら、意外と何とかなるかもしれない。


 私はそれができなかった。勇気がないから。傷つくのが嫌だから。傷つけるのがもう嫌だから。


 だけど、トウカと話をして、ミカミ君と話をして思ったんだ。二人は本当は仲直りしたいんだって。優しさのあまりおかしくなってるんだって。だからトウカとミカミ君ならきっと、私とは違って本当の気持ちをぶつけることができると思うし、仲直りできると思う。


 これが私の末路で、今実際思ってること。ここまで話したのは、本当にトウカとミカミ君が初めてだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る