「全員集合」

 それから二日後の休日の朝。携帯がけたたましく鳴り響いて、安らかな眠りを妨げられた。そのまま寝てしまいそうになりつつも手を伸ばして、携帯を取っては画面を見る。


「葵……?」


 店の前で別れてすぐ、彼女は戻ってきて連絡先を交換してほしいと言われて応じていたのを忘れていた。


 もちろん最初は躊躇ったけど、手伝うと言っておきながら連絡が取れないのはいささか不便だと気づいて、交換したんだ。といっても今日この日まで連絡すら取ってないわけだけど。


 応答の緑ボタンを右にスライドして電話を取る。


『……もし、もし、えっとおはよう……?』


「お、おはよう。ど、どうしたの?」


 電話自体慣れてないから凄く硬くなっている自分が恥ずかしい。電話ってこんなにも気を使うものだっけ。


『あ、あの、み、ミカミ君、きょ、今日、その、暇、なら、いつもの、えっと、いつもの、ファミレス、に来て……そ、それじゃあ!』


 返事を返す前に一方的に電話を切られてしまった。耳にはいつもよりも歯切れの悪い葵の声しか残っていなくて、言葉をちゃんと繋げれるまで時間がかかった。


 多分初めて会ったファミレスに来て欲しいって言いたかったんだろうけど、いつ頃とかどの席とか何も言ってない。でも暇なのは確かだし、これと言った予定もない。


 もしかしたら手伝ってほしいことができたのかもしれないし、僕は軽く身支度を済ませて、そのファミレスへと向かった。


 店内に入る直前にテーブル座席がメッセージで送られてきていたから、そのまま指定された場所まで歩みを進める。


「おう、水上……久しぶりやな」


「水上君……」


 そこには葵だけでなく、ショックで寝込んでいたと聞いた茜、そして茜の隣に東条先輩といつものメンバーが勢ぞろいしていた。


 でも、先輩の色が僕を見た途端に霧がかかったような白くて、それでいて冷たい水色に変わったのを踏まえると、恐らく僕がここに来ることは今の今まで知らされていなかったんだろう。


「トウカ……ごめん、ね。私が、呼んだの」


「葵さんが……?」


「喧嘩、してる、から、仲直り、してほし、くて」


「け、喧嘩じゃ……」


「ううん、喧嘩、だよ。お姉ちゃんが、言ってた、し……あ、み、ミカミ君、座って、ね。立ったままだと、その、周りに……」


 僕を差し置いて、話が始まったから呆然としてしまっていた。電話越しと雰囲気が違い過ぎる葵の言葉に我に戻ると、そそくさと空いてる場所――葵の横に座った。同時に強く机を叩いて立ち上がった先輩が、低い声色で言った。


「……ごめん、私帰る。水上君とは、今は会いたくなかったし」


「まあ、待てトウカ。せめて自分が頼んだデラックスパフェ食ってからにせい。あんなもんうちらは食えないからな。そのままポイは店に失礼やろ」


「う……わ、わかった……」


 まあ、嫌われてるんだからそうだよな。会いたくもない人と一緒に話すことなんてないはずだろうし。だからと言って食べ物を粗末にするのは良くはない。本人もそれはわかってるみたいで、素直に座りなおしていた。


 その直後に、先輩が頼んだと言っていたデラックスパフェ――普通のパフェを二倍、三倍にした豪華な超特盛パフェが先輩の前に置かれた。続けて葵と茜の前に透明のサイダー。東条先輩にはオレンジジュース。僕にはどこまでも黒いコーヒーが置かれた。


 もちろん僕は何も頼んでない。ただ、一体僕が来るまでなんの話をする予定で、先輩が超特盛のパフェを頼んだのかが真っ先に気になる。


「あ、すまん水上。何飲めるかわからへんから適当にブラックコーヒー頼んどいた。葵の奢りだから気にせず飲めよ」


「そ、そうなんだ……まあ僕はなんでも飲めるから、ありがたくいただくね。ありがとう葵」


 知りたいことではなかったけれど、まさか奢りだとは思わず少しびっくりした。出てきたものは変更できないし、残すわけにもいかない。ブラックコーヒーは苦手だけど何でも飲めると嘘をついて、厚意を受け取ることにした。


 それはそうと、葵の名前を呼んだ途端、茜がニヤってしたんだけど……え、なに。ショックで寝込んでた割にはいつも通りの元気さじゃない?


 なんてツッコミは入れれるわけはなく。


「トウカ、最初に、謝る、ね。会議嘘、だったこと」


「……まあ、別にそれはいいよ」


「よかった、でも、もう一つ……ミカミ君とトウカの関係より、空気、重くなる、かもだから……」


「今から葵は過去を話すんや。二人とも仲直りして欲しいからってな。正直ここまで心を開けたのは、自分らが初めてやで」


「余計な、こと、言わない、でお姉、ちゃん」


 先に謝る内容の意図が見えないと思っていたら、横から茜が言ってきて葵が本気で僕達を仲直りさせる気でいると知った。でも先輩は揺らぐことはなく、黙々とパフェを食べ続けている。それも結構速いペースで。


 僕としては、あのゲームの闇を知ってしまったし、正直言い過ぎたと思っている。仲直り出来たらしたいとも考えたけど、きっと無理なんだろうなって決めつけていた。


 だからこそ、葵の行為は素直に嬉しくて、でも先輩の反応と感情に胸が苦しんでばかり。なるべく先輩を見ず、辛さを顔に出ないようにしながら、葵の話に耳を傾けた。


「今から、話すの、私の、独り言、だから、聞き流し、てもいい、よ。でも、二人には、知って欲しい……私の……人に嫌われて、人を嫌った、の、末路を。今の、の思いを」

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