第18話 月天流五臓六腑

「ちょっくら散歩でもすっかな」

独り言を言い、ぶらぶらパトロールがてら散歩にでかけた。僕の住むこの光沢町は意外と

広い。仕込み杖で剣の形をしながら、僕は歩いていった。その道すがら、突然不穏な風が吹いた。熱風だった。僕は後ろを振り向くとそこには人影があった。その人はこちらを凝視している。僕は、

「あの、なにか用事ですか?」

とたずねた。その人は、言った。

「お前、龍刈りだな」

僕は、ハッとなって、身構えた。しかし外見からレプティリアンではなさそうだったので聞いてみた。

「お前は、何者だ?」

そいつは、黒いコートのフードを上げると、

「ドラコニアンだ」

と言った。そうまさにこれから討伐しようとしている相手だったのだ。そしてそいつは

「若い芽は早めに摘み取らねばな」

といい、襲いかかってきた。腕を振るい爪で引っ掻いてきた。そのスピードたるや、音速の如しといった速さ。僕はとっさに仕込み杖でガードした。

「雑魚ではなさそうだな」

そいつが呟くと、ふうっと息を吸い込み吐いた。次の瞬間、炎が僕を襲った。体を丸め、チャクラを練ってそれを体中に張り巡らしガードした。

「ほう、新米にしてはやるな」

ドラコニアンは、攻撃の手を緩めない。次は、爪で空を切り、連続で斬撃を飛ばしてきた。

これまでの雑魚とは訳が違う、戦闘力。僕は守勢に回らされていた。この流れを断ち切るべく僕は、ふうっと息を吸い込み、刀を鞘に収め、静止した。ドラコニアンは、危険を察知し動きを止めた。

「何をするつもりだ?」

「貴様を粉微塵に粉砕するつもりだ」

僕は、どすのきいた声でそう言うと、とある技を放った。

「月天流蒼龍斬」

相手にまっすぐ突進し、抜刀、チャクラを纏わした剣で七連撃を喰らわす剣技である。手応えはあった、しかし、ドラコニアンはふうっと息を吸い、こう言った。

「まだ青二才のようだな、そのおかげで助かった」

破れかけたコートを引きちぎるとその下には、金剛石の鎧を着ていた。確かに七ヶ所、へこみができている。僕は、月天流五臓六腑を使うしかないととっさに感じた。修行では、触りだけ教えてもらい、ハタ師からは、実戦の中で磨けと言われた未完成の技。うまくいくかは、今までの自分の研鑽と運次第だ、と開き直った僕はふうっと息を吸い込み再び静止した。

「懲りぬやつよ」

そう言うとドラコニアンは、口から炎を吐いた。その刹那―。

「月天流五臓六腑」

「ぐえああああ」

ドラコニアンは粉微塵に粉砕された。僕はふうっと息を吸い込み、ゆっくり吐き出し、汗を拭った。感触が未だ残っている。気持ちが良かった。僕は少しよろけながら、家路についた。帰ると母さんが嬉しそうに、

「おかえりなさい、今日は早かったわね」

と微笑んだ。僕は、ただ今と言い、部屋に向かった。今日はゆっくり風呂につかりたい。そんな気分だった。ベットに横たわりふと窓際を見た。そこにヤモリがいた。

(我々に味方せよ)

頭の中に強いメッセージがガンガンと鳴った。

「ふざけるな!」

僕は久しぶりに取り乱しながら言った。

「どうしたの拳ちゃん、大きい声出して」

母が気づいて階段を上がってきた。振り返って窓際を見るとそこにはもうヤモリはいなかった。母が心配そうに、

「何かあったの?」

と聞く。僕は、

「学校でちょっと嫌なことがあってさ、ただそれだけだよ」

と誤魔化した。

「そう」

母は、寂しそうにうつむき部屋から出ていった。


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