第9話 修行②
「ちなみにこの網を斬れたら褒めてやるぞ、実質金剛石より斬りにくい 」
とハタ師は言った。網くらいすぐキレるに決まっている。その考えは大間違いだった。モノの一時間ほど金剛石相手に剣を振るっているが、傷一つつかない、そして網も全くの無傷。僕は心が折れそうになった。
二時間ほど続けていると、後ろからハタ師が、僕の構えを矯正してくれた。そして
「心で斬るんだ、精神を研ぎ澄ませ!」
と力強く言った。僕もそれに答えるように、心穏やかにし、目を瞑って、剣を振り下ろした。するといままでのカーンという金属音ではなく、ずチャという鈍い音がした。よく見ると金剛石に切れ目ができている。
「まあスッパリとはいかなかったが合格とする」
といい金剛石をパキッと折った。確かに自分の一太刀が金剛石を斬ったのだ。僕は感動して少し涙がでた。
「次の段階にいきたいとこだがあんまり遅いと親御さんが心配なさるだろ今日はこれまでとする」
と言うと、一仕事終わったあとのように、煙草に火をつけ、プカプカやりだした。僕は何気なく聞いた。
「なんで僕を教えようと思ったんですか?」
するとハタ師は、
「キラリと光るものを見たからってのは冗談で、即戦力が欲しかったからだ」
としらっと答えた。
「そうですか」
鍛え方次第では即戦力になる、と思われていると思うと身震いした。
「じゃあ今日は帰ります」
「おうまた明日来いよ」
帰り道、鼻をつくいやらしい匂いがまたした。そのうち僕にも襲いかかってくるんじゃないかと思い鞘を収めた仕込み杖を振り下ろした。ビュンと空を切りその風圧で、落ち葉がとんだ。時刻は夜の十時を回っていた。不穏な風が流れていた。刹那、ソレは襲いかかって来た。肌の色は緑、レプタリアンだ。ビュンと宙を浮きながらこちらへ向かって突進してきた。とっさにそれを避けた僕はレプタリアンが高いところに登っていくところを後ろ目でみた。そいつは、高いところから獲物を狩るような感じで、下降し、突進してきた。
その瞬間、僕は抜刀しそいつの頭をばっさり斬っていた。
「はあっはあっ」
息をするのが苦しかった。絶命したそれを確認するように蹴飛ばすと言いしれぬ感情になった。命を奪うというのはこんなにも…とセンチな気分になってしまった。それから僕は一目散に家路についた。怖さと怒りと、喜びが交錯する不気味な夜だった。家に入り只今と小さく言うと、あら遅かったのね、と母さんがあっけらかんと言った。僕はもうどうにでもなれという気持ちになった。部屋に戻り、ベッドの上で月を眺めた。ヤモリはいない。それだけで少しホッとした。これから僕はこんな思いを幾度も経験するのかと思うとやっぱり怖かった。しかしなれが重要と言うハタ師の言葉を胸に、瞼を閉じた。その日はそのまま眠ってしまった。
「おはよう母さん」
「おはよう拳ちゃん」
僕の家は母と僕の二人暮らしだ。と言っても、地方に単身赴任中の父もいるが。母はのんびりした人で、あまり取り乱したりしない、不思議な人だった。朝飯を頂き用をたし、歯を磨いて顔を洗う。そして登校。いつもと違うのは仕込み杖を持っていることくらいだが、
母さんにはなんて言おうと悩んでいた。足が麻痺したと言ったら、心配するだろうし、さてどうしたものか。悩んだ末これでいくことにした。
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