第2話 事件

第二音楽室に向かうと、すでにベースの大春渚とドラムの紅丸響也が待ち構えるようにいた。

「おうケン、新曲持って来たんだろうな?」

と渚が要求するので、僕は鞄から、譜面を取り出し、

「月とヤモリ」

と曲名を告げた。

「月とヤモリー!??」

二人共どこか頼りない感じでそう言うと。まあいいやと音に肉付けしていった。歌詞とコード進行だけ記載された譜面に、ベースとドラムの分も少しずつ書き足されていき、モノの一時間ほどで曲は完成した。みんなで合わせてみる。ギターはオクターブ奏法で、出来としてはエモい感じだった。♪♪♪ー。

「いいじゃん」

「おうイイネ」

渚も響也も満足気だった。僕は少し安心した。昨日ヤモリと出会ってから降りてくるように書いた曲だった。そして、今月末にある地元のライブハウスでのライブを前に、皆意気込んで、練習に励んだ。練習が終わり、帰路につく。あたりは、暗い闇に覆われている。するとそこに、

「けんちゃん」

とあずさの声。

「どうしたこんな時間まで」

「新聞作り手間取っててさ」

「へえ、ビッグフットだっけ」

「そうビッグフット」

「そうそう今日は新曲やったんだよ」

「へえ、どんな曲?」

「月とヤモリって曲」

「あは、朝言ってたやつだ」

「そうそう」

などと会話を楽しみながら帰っていった。僕の家は学校から割と近いので、あっという間に家について、あずさにサヨナラを言うと。家に入って行った。あずさは一山越えたところに家があり、通学も自転車だ。他人事ながら大変だろうなと思っていた。家に入ると母さんがおかえりと出迎えてくれたのでただいまといい自分の部屋へ向かった。母さんは、「晩ごはんどうするのー」

と聞いてきたので、

「適当な時間に食べるよー」

と返しておいた。僕は一人の部屋で天井を眺めていた。ふと、思い返したかのように窓に目をやると、またあのヤモリがいた。月も一緒に昇っている。ふうっと息を吐き、窓に近づき、

「もしもし、ヤモリさん、聞こえてますか?」 と言った。すると頭の中に直接

〈聞こえてるぞ〉

という男の声が聞こえた。僕は興奮気味に、

「ヤモリが喋ってるのか?はは」

と言うと、ヤモリは、

〈ああそうだ、貴様の脳内に直接語りかけている〉

と言った。これには少々取り乱してしまった僕は、落ち着きを取り戻したあと、

「毎日来てますねヤモリさん」

と言った。

〈ああ、用があってな、ここのところこのあたりで失踪者が後を絶たんだろう?実はそれは同族の進化系、レプタリアンが関与しているらしいのだ〉

確かに最近このあたりでは、消息不明で痕跡もなく消え去る失踪者が後を絶たないほどでていた。僕はピンときた。

「そのレプタリアンが人間を、その、食っていると?」

するとヤモリは言った。

〈ああ、感がいいな、そのとおりだ〉

実を言うと、うちの学校でも被害者は出ていた。神崎という大人しめの男子生徒だった。体型は小柄だった。ヤモリは続けざまに、

〈お前にそのレプタリアン退治を依頼したい、勿論ただとは言わん、願いを一つ叶える〉

「退治って、そんな力俺にはないじゃないか」

怒るように言った僕に、ヤモリさんは、

〈私が肩に乗っている間、普段の百倍の筋力を発揮できるブーストが作用する、活用しろ〉〈さらに我の属性、雷の力を自在に操れる様になる。いづれも肩に乗っている間のみだが〉と言った。僕は窓を開けヤモリさんを家に入れた。ヤモリさんは大人しくその場にじっとしている。

〈貴様の学校にも、侵入しているようだ、気を抜くなよ〉

そう言うとヤモリさんはゴロンとなって。〈じゃあおやすみ〉と言って寝てしまった。僕はこの事実に、得体の知れない恐怖感と好奇心に心が砕けそうになっていた。落ち着くまで目を閉じようと横になり、目を瞑るが寝れない。結局、一睡もできずに僕はこの事実を受け入れるしかなかった。そして登校時、ヤモリさんは肩に乗ってきた。

「学校までついてくるのかよ、目立っちまうよ」

〈気にするな、お前が意識しなければ私の同化の術で周りには気づかれん〉

本当かなぁと僕は心配した。早速、

「おっはよーけんちゃん、あれ?なんか元気ないね」

とあずさに言われ、僕は、

「わかるか、疲れてんだ俺」

と言うと。

「おっさんか!」

と突っ込まれた。ヤモリさんには気がついていないようだ。

「最近このあたり失踪者が後を絶たない状態だろ?お前も気をつけろよ」

と僕はあずさに言った。あずさはドキッとしたように、

「わかってるよう」

といじらしげに言った。今日もなんとなくつまらない授業を受け、放課後、バンドをやって、帰宅するだけ、とはならないだろうなぁと少し諦めた表情で、僕はキュッと唇を結んだ。事件は、昼休み起きた。校舎のはじの大きな木の付け根あたりで、いつものように昼飯の弁当を食べていると、遠くの方できゃああ、と女生徒の悲鳴が聞こえた。なんだと言わんばかりに、その声の在処に直行した僕とヤモリさんは遭遇してしまった。本物のレプタリアン(爬虫類型宇宙人)に。その歯は鋭く尖っており、肌は緑色で鱗はないが、目も爬虫類のソレだった。

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