月とヤモリ

魯沙土曜

第1話 日常と非日常

ある晴れた日の窓際で、窓にへばりつくヤモリがいた。ソレは夜空の月と相まって非常に絵になる情景だった。僕はこの小さな部屋で、何をしているんだろう。ふとそんなことを考えていると、ふいに頭痛がした。痛いっ、口に出してしまうほど痛みはひどかった。次に声が聞こえた。〈君は何をそう後ろめたそうにしてるんだい?〉と。僕は幻聴かなにかか?と思って取り合わなかった。すると窓にへばりつくヤモリは、眼前から消えていった。その日はすぐに寝た。

僕は普通の高校生である。特につっぱっていたり、変に目立ったりはしていない。黒髪バリーショートで、まあ校則では禁止されているが耳にピアスを開けている。目立つところといえばそれくらいで、教師もまあそれくらいならといった感じで、容認されている。

名前は、田所拳優。よくけんちゃんと呼ばれる。

「けんちゃーん」

早速そう呼ばれる。

「昨日のプリント、五時限目で帰っちゃったから」

そう言うとその女生徒は、

「一緒に行こうか」

と誘ってきた。僕はうんと肯き歩き出した。この女生徒は、橘あずさ。ロングヘアーの前髪ぱっつんで、大きな瞳をした少女だ。サラサラな髪が印象的である。僕とは同じクラスである。部活は、なにかよくわからない、ユーマだかなんかの研究部らしい。それについて深く聞いたこともなかった。

「けんちゃんビッグフットって知ってる?」

唐突にあずさが聞いてきた。

「知らないよ」

と答えると、チェと言って、

「つれないなぁ、我が部活の今月のテーマなのに」

と言って少しふくれて見せた。僕は言った。

「ユーマだっけ、未確認生物だよな確か。」

「そう、そうだよ、少しは興味持ってくれた?」

「いいや全く」

「ええー、ひどいよー」

「昨日ヤモリを見たよ」

「ユーマじゃないじゃん。ヤモリ科ヤモリ類のトカゲの一種じゃん」

と適確に返され呆気にとられた僕は、

「いや、ヤモリから語りかけられたような気がしてさ」

と少し恥ずかしげに言った。

「ええー、テレパシー?どんな感じ?」

流石にノリがいい、ユーマ研究部部長のことだけはある。

「頭が痛くなってさ、その後、声が聞こえたんだ」

僕がうつむいて少し寂しそうにそう言うと、あずさは、

「凄い、今月のユーマ新聞の端っこの方に書いておくね」

と言われ、僕はやめてくれと頼んだ。そんな登校時の出来事があって、その後の授業はあってないようなもんで、放課後を迎えた。僕は軽音楽部でバンドをやっていた。

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