こいつの兄貴を殺してくれ
双六トウジ
魔法のランプ
もしも、なんでも願いを叶えてくれる魔法のランプがあったなら。
そんな問は、似たような話含め古今東西に存在する。
まぁ様々な答えがある。金持ちになりたい。力を手に入れたい。意中の子に惚れてもらいたい。
そしてその中には、土に還った生命を生き返らせて欲しいなんてものもある。
だが、大きな願いには代償がある、というのもよくある話だ。
始まりは昔、シスタの兄のザブラが小瓶に閉じ込められた悪魔を海で見つけたことからだった。
アダムス王国のスラム街で暮らしていた俺とザブラとシスタは、小さな頃から一緒に遊んでいた仲だった。ザブラがその悪魔に「王子様になりたい」という願いを叶えてもらうまでは。
その後ザブラは城を抜け出して遊んでいた王国の第三王女に偶然出会い、そしてその顔の良さと紳士さですぐに求婚され、トントン拍子に王子様になった。
俺とシスタの方はというと、今まで通りスラム街暮らしだった。シスタは王子の妹なのだから何か貰ってもよいのではないかと思ったが、そんなことはなかった。そも、ザブラは妹がいることを将来の妻に言ってなかったようなのだ。悪魔との契約のせいか、はたまた甘い蜜を独り占めしたかったからなのか。
でもシスタは気にしていなかった。兄が幸せになった、ただそれだけで、それだけのことで彼女は幸せなんだと。一生スラム街暮らしなのに。
だけど俺は駄目だった。
それから数年経ったある日、悪政に反逆しようとレジスタンスが城を襲った。
王族は皆、国民の手で処刑された。
ザブラももちろん、首と胴体が別れた。
それは、悪魔に願った代償なのかもしれない。
長い旅の果てにようやく見つけたランプを彼女は擦る。
「私の兄さんを、生き返らせてくれ」
ランプの魔神……あるいは悪魔かもしれない。いや、彼女にとってはどちらでも構わないのだろう。とにかく願いを叶えるシステムは、彼女の兄を現世に召喚した。
よくある展開として、死体そのままが動いているような状態で。
「あ"#=ガ…………?」
蘇生されたそれの第一声は、人語になっていなかった。
「……そ、そんな」
彼女の兄は首を切られて死んだ。その後に俗に言う死体蹴りをされて、体中がボロボロになった。手足は千切れ、腹から腸が飛び出し、男性器は切り取られ。
無事なのは晒されていた首だけかもしれない。
本当は、レジスタンスを主導したのは俺だ。
許せなかった。唯一の家族を見捨てたあいつを。大事なはずの存在を簡単に切り捨てられるようになったあいつを。
悪魔の誘いのせいだと考えることもできただろう。だが、やっぱり駄目だった。兄を誇りに思いながら冷たい地面で寝ているシスタを見ていると、自然と涙が出てくるんだ。
だから、俺がザブラを殺した。
無駄に綺麗な首筋を抑えつけて。
無駄に綺麗な顔を見ないようにして。
どでかい骨切り包丁で、一息で殺した。
なのに、無知なシスタときたら!
あいつの首を持って、「どうにかして兄さんを生き返らせてやる」だって!
笑えてくる。実際鼻で笑った。
そうしたら、まさか本当にどうにかする手段を見つけるなんて。
一緒に旅をしていて正解だった。
俺はため息と共にシスタの隣に立つ。
「だから言っただろう、シスタ。蘇生なんてろくなことにならないって」
「だ、だって……! 完璧な状態で生き返るのだと思っていたから……!」
「そんな都合いいことあるわけないだろ。人間と魔神とじゃ考え方が違うんだから」
「…………」
俺は仕方なく、魔神に向かって願いを言った。
こいつの兄貴を殺してくれ 双六トウジ @rock_54
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