第13話


 あれは、一日目の試験が終わった後だった。

 慧と駅で別れたあと、携帯の電源を消したままにしていたのを思い出した。

 電源を入れると、何件かのメッセージが入っていた。全部、兄の知幸からだった。


 終わったら連絡がほしいというのが一件。

 見てないだろうという、首を傾げるメッセージ。

 何をだろうと思っていたら、次の一文でドキッと心臓が跳ねた。

 雪のメッセージを見ろという。


 ――雪野さん?


 メッセージをもらっていたのかと慌てて確認すると、確かに未読のメッセージがある。いつ入ったのだろう。時間を確認すると、朝の電車に乗った時か。

 兄が見ろと言うメッセージ。

 アイコンの横に一文に、手が止まった。


 そして、すぐに電話をかけた。


 数回のコールのあと、「おう! 終わったのか」という声が聞こえてきた。

「うん」

「電話をくれたということは、メッセージを見たってことだな」

「ごめん。今見たとこ」

「後で、雪にも連絡しとけよ。で、どこだよ?」

「いや、もう、駅なんだけど」

と言うと、しばらく無言になった知幸。


 そう、電話の相手は兄だ。


「……んじゃあ、もういいか。気をつけて帰れよ」

 気の抜けたような声。知幸は去年の春休み、兄のところに行った際に巻き込まれたこともあり、迎えに来てくれていた。メッセージを見逃していたことを申し訳なく思った。


「知兄、今どこ?」

「大学前」

「戻ろうか?」

「なんもないなら、それでいいって」

 電話越しに、ざわざわと聞こえていたのは、受験生の声だったのか。

「じゃあな」

 さっぱりとした兄の声に申し訳なさが半減する。

「うん」というと、電話が切れた。


 電車の到着をプラットフォームで待つ。

 サラリーマンや老夫婦、買い物袋を下げた女の人などが並んでいる。

 ちらほらと学生の姿もある。同じように試験の帰りかも知れない。


 怜生は、隆之介のメッセージをタップした。


『試験終わったら、知幸に連絡して。

 迎えに行くそうだ。

 何かあったら連絡しろってさ。


 明日の試験が終わったら、こっちに一度来るか?』


 文面を読んで、怜生は急いで見ていなかったことの謝罪と、問いの返答を打ち込んだ。



「そういえば、知兄は来るか来ないか聞いてこなかったんだろう?」

疑問が口をついて出た。


 兄から『見ろ』とメッセージが来たということは、隆之介から兄へ、返事がまだだと知らせたに違いない。なら、明日、怜生が来るか来ないかも返事がまだだという事がわかる。もしかしたら、最後の一文は、兄が知らないのだろうか……。

 それに、迎えに行くことぐらい自分でメッセージを送ればいいのに、どうして隆之介にメッセージを頼んだのだろう。


 疑問は湧いてくるけれど「まあ、いいや」と、たいして重要だと思われなかったので、考えることを止めた。

 とにもかくにも明日に備えよう。


 明日が終わったら、兄と隆之介のマンションに行ける。

 そう思うと、俄然やる気が湧いてきた。


 そして、二日が無事終わった――。

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