第7話

 愛が綺麗な子であるのは傷があっても分かることだ。だから、勿体ないなあとも思っていたし、今更伝えるべきことでもない気がする。だけど、あたしは傷がない愛を見たい。


 薄い蝋を愛の頬に塗ったらカッターナイフでは裂けないくらいに固くなって、愛の顔はずっと傷つかずに済むんだろうか。

 でも蝋は熱いからだめだ。どうしたら愛の白い肌の上に真っ直ぐ走る、その赤い線は薄くなっていくんだろう。


 でも、愛が愛を守る行為を真っ向から否定するほどの強さは、あたしにはない。それを否定したところで、誰が愛を守ってくれるのと問われたら、きっと答えにつまる。 


「瑞希、ありがと。優しかね」

「友達に傷ついて欲しくないって思うのは、普通やろ」


 青春映画のような台詞だなとあたしは心の中で自嘲する。嘘じゃないけど、本音でもない。歌うようにさらっと出てきた言葉の割には、どういう思いを乗せていたのか自分でも分からない。

 ただ、クサイ言葉だと、照れくさくなる。頭のてっぺんから足先までが一気に熱を持って、お風呂上がりみたいにふわふわする。

 そんなあたしのことなど知る由もなく、目の前の愛はポテトを食べ続けている。愛が咀嚼する度に、傷が波打った。



 夏休みに入ってからも、あたしは時々愛と会った。愛の私服は思っていたよりも地味で、大体いつもスキニーデニムにシンプルなTシャツの組み合わせばかりだ。だけど愛には似合っていた。


 そんなあたしも同じような格好だ。ストレートデニムに大きめのTシャツ。男の子みたいだとお母さんは顔をしかめるが、あたしが何を着たって関係ないだろうといつも思う。


 服装に関しては、少し嫌な思い出がある。昔はもっとやんちゃで、男の子に混じって遊んでばかりいたあたしは動きやすい服装を好んだ。それが悪いことだとは疑うこともなく、誰も何も言わなかった。

 というのに、いつの間にか皆は動きにくい服を着て、それを嫌うあたしは異様だと言われた。いわゆる女の子らしい服はあたしの動きを封じようとするから嫌だ──その主張は周りに通じなかった。


 着る服が変わって、身体も変わって、腐った樹木みたいに心と身体がめきめきと剥がれていく気がした。

 身体の変化は止めようがないので、せめてもの抵抗で、心と身体の距離を埋めるように服装は自分にしっくりくるものを選ぶようになった。


 あたしの動きを封じない服を纏うと、周りから女の子らしくないと言われて困った。

 らしくないって何だ。

 そんな疑問を持つことがおかしいことであるなら、あたしは自分を矯正しなければならないんだろうと痛感した。これが嫌な思い出。

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