第6話
月水金の放課後、それと時々日曜日に愛と過ごすことが増えた。平日の日中は愛があたしを避けていた。集団行動はどうしても嫌なんだと。どうしてだろうと思っていたけど、ある日気がついた。
「瑞希、平野さんと最近仲いいよね。どうしたの?」
真帆が何気なく放った言葉で、今更ながら察した。愛と仲良くするというのは、周囲にとって普通ではないらしい。愛はそれを自分で分かっていただけのこと。
「うん、なんとなく。悪い子じゃなかしさ」
「そうなんだ。ふーん」
真帆も絵里奈も愛にあまり興味はないようで、自分も話しかけてみようとはならないようだ。愛もそれを望んではいないから、あたしも無理に何かをしようとは思わない。
愛は小学校の時みたいに周りに嫌われたくないと話していた。一度痛い目に遭うと、慎重になってしまうのは当然といえば当然だ。そんなことないよって、あたしは無責任に言えるほどの力も自信もない。だから、日中は愛をひとりにすることにした。
年に一回しか会えないことになっている織姫と彦星のように、離れる時間を設けるとふたりで過ごす時間が特別に思う。そのことを愛には秘密にしていたのに、愛はさらっと口にした。
「愛、それ口説き文句みたい」
「あはは。瑞希が男やったら、あたしに惚れてしまったやろか」
「惚れてしまったかもしらんね」
じわじわと熱を帯びていく頬を手のひらで冷やしたけど、手のひらまでも熱くなってしまう。真夏のチョコレートみたいに手のひらの表面が溶けだして、頬とくっついてしまうんじゃないかと勘違いしそうだ。
そんなあたしの気など知らず、愛は楽しそうだ。「ガチ照れかい」と言った愛は、いたずらが成功した小学生の顔をしていた。
今日は図書室でふたり揃って本を読んでから、閉館時間よりも少し早く席を立った。
運動場で部活に励む女生徒達を見ながら、ぶらぶらと鞄を振りながら校門をくぐる。普段ならここで別れるけど、愛もあたしもまだ帰りたくなかった。目が合った途端に互いにそれを悟った。
結局、どこに行こうか悩んで学校から一番近い商業施設へ向かった。フードコートでいつものようにジュースを飲んで、お腹も空いたからマックのポテトもつけた。
この塩加減とさくっとした歯応えがいいんだと愛は次々にポテトを口に放り込む。マスクをずらした愛の頬には相変わらず赤い線が引かれている。
「……愛、傷が薄くなっとるね」
「うん、最近なんか切りたいって気分にならんくて。最近誰も顔のこと言わんくなったからかなあ」
「そっか。うーん、じゃあ愛の顔のことを何か言ったら、また切りたくなってしまうかな」
愛はポテトを運ぶ手を止めた。
「瑞希、何か言いたいことがあると?」
愛はマスクをずらしたままの顔であたしのことを射抜くように見る。睨んでいるわけではないけど、あたしの奥底を探っている。少しだけ、居心地が悪い。だけど、愛に見られるのは嫌じゃない。
「……愛の顔から傷がなくなったところが見てみたいと思っとる」
「傷が、ないところ?」
あたしはこっくりと頷く。
「きっと、綺麗だと思うから」
「今度は、瑞希が口説くんだね」
愛に言われてはっとする。無意識に言ったから、口説くだとかそういうことは考えていない。そうじゃない、と慌てて伝えたら愛はまたけらけらと笑っていた。
──何を言ってるんだ、あたしは。
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