あなくろフィルム
僕が父親について知っていることは、
あらためて考えてみると驚くほどに少ない。
ぼんやりとだけど年齢は知っていたし、
どういう仕事をしているのかも知っていた。
でも、それ以外のことについては何も知らないに等しかった。
どんな映画が好きだったのか、どんな音楽が好きだったのか、
どんな本が好きだったのか。
そもそも父親について何か知ろうと思わなかったし、
逆に自分のことを知ってもらおうとも思わなかった。
でも、その機会がまったくなかったわけじゃない。
家には父親のものと思われるカセットテープがいくつかあったし、
少しだけではあるけど漫画もあった。
当時、好きだったバンドのMVを居間のテレビで見てたときに、
父親が話しかけてきたこともある。
変わってるけどいい曲だなとか、
ヴィジュアル系のMVを見てる子供にかける言葉としては、
なかなか悪くないものだったように思う。
上っ面だけの言葉ではなくて、
そこには本当の気持ちがあるようにも感じられた。
それがMVに対してのものなのか、
僕に対してのものなのかはわからないけれど。
ただ、音楽について話す絶好の機会だったことは間違いない。
残念なことに当時の僕はそれを活かそうとしなかったし、
父親のほうもそれ以上は話しかけてこようとはしなかった。
気の抜けた返事をするのではなく、
無理をしてでも一歩を踏み出していたら。
そんなことを考えては、意味のない空想にひたっている。
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