第36話 厄災対策
ロランのギフトに【取得経験値倍化】がある。そこに加えて枢が付与したスキル【取得経験値十倍】が相乗効果を生み、ロランが取得できる経験値は二十倍になっていた。それを受け、ロランはイリアのレベル上げを急務と考え、戻ってきた翌日からイリアと二人で攻略階層を更新し続けていた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!! も、もう無理ですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「えぇ……、ちゃんと防御フィールド張ってるじゃないか」
「無理なものは無理ですわっ! こんな神話でしか聞いた事もない怪物が現れるなんてぇぇぇぇっ!」
現在裏ダンジョン地下600階。現れる魔物は今のフェンリルなど相手にもならないほど強力な魔物ばかり。しかも一体一体が魔王クラスの実力を持っている。
《グフッ……! 我が死んでも代わりはいくらでもいるっ! お主に勝ち目などないわっ! はははははっ》
「毎回この捨て台詞聞くの飽きてきたなぁ……」
数時間後にはまたリポップするのだが、この階層に入ってから遭遇した魔物はどれも似た捨て台詞を吐いて消えていく。
「よし、次に──あ」
「ふぐっ、うぅぅぅぅ……!」
三十分後、着替えを済ませたイリアと合流し再び先へと進む。
「私っ、もうお嫁に行けませんわっ! 殿方にあんな恥ずかしい姿を見られるなんてぇぇぇっ! 責任とってロランさんがもらって下さいませっ!」
「えぇぇ……。イリア様って王族なんだよね? そんな簡単に結婚とか……。いや、相手って自分で選べるものなの? 王族って政略結婚とかじゃないの?」
その問い掛けにイリアはこう答える。
「確かに他の国ではそういった話も聞きますし、この国の貴族でもそうしている方はいます。けれど父はそういった結婚を良しとはせず、本当に好きになった相手と結婚しろと言っています」
「へぇ~。じゃあなおさら僕なんかじゃなくて好きになった人と結婚した方が良いんじゃない?」
「私はその……す、好きだが……」
「誰を?」
「ロランをだ……」
少しの間沈黙が起こった。ロランは顔を真っ赤にし慌てふためいた。
「ふぁっ!? す、すすすす好きって僕!?」
「う、うむ。ロランは強いし優しいし、料理も上手いしマナーもしっかりしている。わ、私の理想そのものなのだ……」
「そ、それを言ったら別にアレンでも……」
「アレはダメだ。強くなる事しか考えていないバカだからな。それに……アレにはセレナがいるだろう」
「へ?」
ロランは目を点にして驚いた。
「なんだ、知らなかったのか。あの二人は多分付き合っている。夜セレナの部屋に入っていっていた」
「マ、マジで!? あの二人……そうだったのか……」
「こほんっ! あの二人は今どうでも良いではないか。その……ロランは私の事をどう思う?」
「い、いきなりそんな事言われても……。か、考えた事もないし」
「考えた事もない? ロラン、私達はもうすぐ二十歳になるのだ。そろそろ身を固める事も考えた方が良いのではないか?」
「でも厄災が……」
イリアはロランを壁に押し付けた。
「まだ五年もあるっ! 今結婚して子供を産んでもまだ間に合う!」
「ち、近い近い近いっ!?」
「私は本気だ。返事はいつでも良いから一度考えてみて欲しい」
「わ、わかったよ。ちゃんと考えてみるよ」
「ありがとう……ロラン」
そう言い、満足したのかイリアはロランから離れた。
それから攻略を続けたが今一つ調子が上がらず、イリアのレベルを500まで上げた所で屋敷に戻った。そして屋敷に戻ったロランはマライアにイリアの事を相談した。
「そう、イリア様がねぇ……」
「はい。僕なんかに好きって言ってくれて……。どうしたら良いですかね?」
マライアは茶色い液体が入ったグラスを傾ける。
「ロラン、あなたはどうしたいの?」
「僕ですか? 僕は……僕はマライアさんの執事ですし、結婚は考えてません。そもそもまだイリア様がどんな方かもわからないですし」
「う~ん……。私の事を抜きにしても考えられない?」
「え?」
マライアのグラスが空になった。
「ロラン、あなたは確かに優秀な執事よ。だけど私はあなたの人生を縛ろうとは思っていないわ。あなたが結婚したいと思ったらしても良いって思ってるの。もしかしたら五年後に死んでしまうかもしれないしね」
「させませんよ」
「もしもの話よ。全員無事って保証もないし。そのもしもに備えて子孫を残しておくのもアリなんじゃないかしら?」
「子孫って……。そんな事考えた事もないですよ」
マライアは空いたグラスに再び茶色い液体を注ぐ。
「ロランももうすぐ二十歳でしょう? 蓄えもあるようだし、恋人を守れるだけの力もある。それにね? 人って大切な人がいる方が強くなれるのよ?」
「大切な人……ですか。僕にとってはマライアさんが一番大切なんですが……」
「そうじゃないの。私は貴方を救ったから恩を感じているだけでしょう? イリア様を選べとは言わないし、修行を止めろとも言わないけれど、そろそろ恋人でも作ってみたら?」
「少し考えてみます……」
「そうしなさい。もっと人生を楽しまなきゃダメよ? 人生は一度きりなんだからね」
「……はい」
ロランはマライアの部屋を出て溜め息を吐いた。
「恋人かぁ……。どうもピンとこないんだよなぁ……」
そしてマライアはというと。
「んくっんくっんくっ……ぷはぁぁぁっ!」
マライアはボトルを傾け中身を飲み干していた。
「……あんの天然王女めぇぇぇ……、私のロランに色目を使うとは……っ! ロランは私のなんだからねっ! うぅぅ……、私がもう少し若かったら押し倒してたのに……。あぁっもうっ! 飲まなきゃやってらんないわっ!」
マライアは戸棚から次のボトルを取り出し口に咥えるのだった。
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