第35話 探し人

 店の地下、その一番奥の部屋に探し人がいた。


「中へどうぞ」

「あ、はい」


 商人は扉を開け、ロランを部屋の中に通した。


「あん? 飯の時間か?」

「さっき食ったばかりだろうが! ボケてるのか!?」

「あぁ~ん? 仕方ねぇだろ。壁に磔にされてよ、目隠しまでされてたんじゃ時間なんてわからねぇし」

「それは貴様が暴れるからだろうが!」


 探し人は両手足と胴体、首を壁に磔にされていた。


「ん? 他にも誰かいるな。誰だ?」


 その問い掛けにロランが口を開いた。


「クルル・ヤガミさんですか?」

「あん? ああ、俺は確かに枢だが? お前誰よ?」

「僕はロランと申します。貴方仲間に迎えるためここに来ました」


 その言葉に枢がわずかに反応した。


「ほ~う。俺を仲間にねぇ。なら俺の作った借金を肩代わりしてくれんの?」

「はい。まさかこんな事になってるなんて知りませんでしたが」

「くくくくっ。やっと来たか。しかも虹金貨百枚なんて額を払える力もある。よっと」

「「っ!?」」

「んなっ!? 封印の枷が!?」


 枢は力づくで枷を外しコキコキと首の骨を鳴らした。


「あ~……やっと自由になれるぜ。ロランって言ったか。そいつに金払ってやってくれ」

「え? あ、うん」


 ロランはマジックバッグから虹金貨百枚を取り出し商人に渡した。商人は枢を警戒しながら受け取った金貨の枚数を数える。


「確かに虹金貨百枚ありました。これでそいつはあんたのものだ。暴れられちゃかなわんから早く連れてってくれ」

「暴れねぇよ。ロラン、行こうぜ。久しぶりにシャバの空気が吸いてぇ」

「あ、はい。リリー、行こう」

「う、うん」


 なぜか枢が先頭を歩き店を出た。


「まぶしぃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 目がっ! 目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「「……」」


 店を出た途端、枢が目を押さえ地面をゴロゴロと転がった。


「あ、あの~……」

「ちょっと待ってくれ。目が死んでる。ぐぉぉぉ……」


 しばらく待ちようやく光に慣れたようだ。枢は地面から起き上がり二人を見る。


「ふぅ~……、おせぇよ。この星に来て二年も待ったんだぞ」

「え?」

「ったく。改めて名乗るぜ。俺は【八神 枢】だ。一応この銀河……って言ってもわからねぇか。ま、神みたいなもんだ」

「か、神様なんですか!?」

「おう。それとほらよ」

「わっ!?」


 枢は空間から袋を取り出しロランに放り投げた。


「これは?」

「虹金貨百枚だ」

「え? お金持ってたんですか!?」

「ああ。ありゃあ試練だ。たかが虹金貨百枚くらい用意できない奴が世界を救うなんてできるはずもねぇからよ。俺を探すのと金を用意する、この二つを試練にした。お前は合格だ、ロラン」

「は、はぁ……」


 いまいち話を理解していないロランに枢はこう告げた。


「五年後、この星に厄災が降りかかる。俺はその厄災が何か知っているんだ」

「えっ!?」

「本当なら俺一人でも余裕なんだけどよ、大宇宙神の奴が現地の奴にやらせろって言うからよぉ」

「だ、大宇宙神??」

「あ~……夜空に星が沢山輝いてっだろ?」

「はい」

「それらを見えない範囲まで全部管理してんのが大宇宙神なんだよ」

「す、凄いんですね」

「まぁな。っと、話が逸れたな。とりあえずお前の記憶を読ませな」

「え? わっ!?」


 枢はロランの頭に手を置き、ロランの記憶を読んだ。


「うっし、二人とも俺に掴まりな。飛ぶぜ」

「「へ?」」

「早く、ほら。マライアって奴の屋敷に飛ぶ」

「は、はぁ……」


 ロランとリリーが枢の手を握る。


「んじゃ行くぜ。【転移】!」

「「わっ──」」


 目の前にマライアの屋敷がある。


「ほい到着だ」

「えぇぇぇ……、一瞬で戻ってきた!?」

「わけわかんないよ!?」

「あら、ロラン? 忘れ物……って誰それ?」

「あ、マライアさん!」


 ロランはマライアに駆け寄り枢の話を伝えた。


「ラス・ベガースから転移? 本当なの?」

「はい。それと……枢さんは厄災が何か知っているそうです」

「なんですって!?」


 マライアは枢を見た。枢はポケットからタバコを取り出し咥えていた。


「ぶあぁぁ……二年ぶりのヤニはうめぇなぁ……」

「あなたがクルル・ヤガミなの?」

「ん? ああ。あんたはマライアだな。扉んとこにいる奴はダニエルだったか」

「どうやらロランの記憶を読んだって話は本当のようね」

「疑ってたのか? 全部本当なんだけどな」

「自分を神とかいう輩はだいたいイカれてるからねぇ。あんたはどっちかしら?」

「イカれてねぇっつーの。俺は元人間から神になった身だ。だからなんでもできるのさ」

「厄災の話は?」

「全員集まったら教えてやるよ。それまで待て」


 それから半日後、屋敷に主要メンバーが集まり枢の話が始まった。


「んじゃ話すぜ。厄災ってなぁ他の星からくる侵略者の事だ」

「「「「他の星から来る侵略者??」」」」

「ああ。そいつらは様々な星を侵略しては他の星の奴に売り飛ばしてんだ。侵略の時に逆らう奴は皆殺し、従う者は奴隷にして他の星に売り飛ばす。まぁ最低の奴らなんだわ」

「は、話についていけないわ。他の星ってなに?」

「あ~……。夜空に輝く星があんだろ。あの中にも生命があるんだわ。星には寿命があってな。住む星を失っちまった奴らがごまんといるんだわ。そんな難民に厄災は高値で星を売り付けてんのさ」

「頭が痛いわ……」


 マライアは頭を抱えた。


「この星はまだ生まれたての若い星だ。星の寿命はまだまだある。厄災にとっちゃ狙い目ってわけだ」


 ジェードが枢に問い掛ける。


「その厄災ってどうやってこの星に来るんっス?」

「そりゃ宇宙船でくるんだよ。あぁ、宇宙船ってなぁ空飛ぶ船だとでも思ってくれ」

「そ、そんなのあるんっスね」

「大小様々な。一番デカい船は母船っていって厄災の親玉が乗ってんだわ」

「ならそれを落とせば勝ち?」

「いや。それだと逃げられる。違う奴が親玉になってまた違う星を襲いに行く。だから……侵略者は皆殺しにしなきゃならん」

「皆殺しっスか……」


 そこでグレイが反応した。


「皆殺しなら俺の出番だな。俺のギフトで一網打尽にしてやるぜ」

「やれんのか? 厄災の一番弱い奴でもレベル1000以上だぜ?」

「っ!? そんなに強ぇのか」

「当たり前だろ。奴らがこれまでどんだけ星を奪ってきたと思ってんだ。親玉にいたっては俺と同じ位強いだろうよ」

「……あんたのレベルは?」

「あん? 9999だけど?」


 これが先ほどからフェンリルが震えていた原因だ。


「とりあえずお前らは残り五年で最低でもレベル1000を超えてもらう。特にグレイ、お前は上げられるだけレベルを上げろ。戦いが楽になるかどうかはお前にかかってんだからな」

「……わかった。こりゃ皇帝なんてやってる場合じゃねぇな。明日からまたダンジョンに潜るわ」


 そして枢はロランを見る。


「ロラン、お前はさらに厳しくいく。五年でレベルをカンストさせな。お前がリーダーだ。お前には親玉と戦ってもらうからよ」

「ぼ、僕が戦うんですか!? 枢さんが戦えば……」

「俺は俺で奴らの攻撃から星を守らなきゃならねぇからな。奴らの母船からの攻撃は星を一撃で破壊できる力を持つ。そいつは俺にしか防げねぇ。お前が母船に乗り込み親玉を倒すんだ」

「……わかりました」


 ロランは覚悟を決め、力強く頷いた。


「よし! じゃあ各自修行開始だ。今から極秘で全員に【取得経験値十倍】を付与してやる。大宇宙神にバレたらめちゃくちゃ怒られるがまぁ大丈夫だろ。後の責任は俺がとる。お前らはギリギリまで修行に励め。良いな?」

「「「「「はいっ!」」」」」


 こうして最後の仲間が合流し、厄災の正体も明らかになった。厄災の正体を知ったロラン達は翌日からダンジョンに潜り、ひたすら自分を鍛えていくのだった。

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