第34話 ギャンブル都市ラス・ベガース
リリーの指示で北東へと飛んだロランの真下に巨大な都市が見える。都市の中央には巨大な闘技場がある。そして都市の中にも壁があり、いくつかの区画に分けられて見える。
「リリー、どの辺かわかる?」
「ちょっと待ってね。えっと……東地区にいるっぽい」
「わかった。じゃあ地上に降りようか」
探し人の位置を確認し、二人は地面に降り立った。そして正規の手順で都市に入る。
「この都市に来た目的はなんだい?」
「えっと人探しと……妹に何か買ってあげよっかなって」
「ほ~。妹思いのお兄さんだな。だがここはダンジョン都市ほどではないが、物価が高いからな。自分で買える範囲で楽しむと良い。間違ってもギャンブルで金を増やそうとは思わない方が良いぞ? 妹さんを泣かせたくないならな?」
「あ、はい」
門番の兵士は常識人だった。ギャンブルが中心の都市でギャンブルをするなと忠告するなどよほど良い人なのだろう。
「わぁぁ……、すっごいキラキラした町!」
「これは……凄いな……。王都より栄えてるし人が多い」
門を潜ると真っ直ぐ闘技場へと向かう広い道があり、その通りの両側に様々な店が建ち並んでいる。そしてとにかく人が多い。この南区画だけでも王都より多くの人がいる。
「リリー、小さく地図をだせる?」
「うんっ」
ロランはリリーに手のひらサイズの地図を出させた。
「よし、じゃあこの赤く点滅してる場所に向かおっか」
「え? 買い物は……?」
「いやいや、先にクルルって人を見つけようよ」
「えぇ~……買い物したーい! ご飯食べたーい!」
「仕方ないなぁ……」
時刻は昼だ。ロランも食事が必要だと思い、先に料理屋に向かう事にした。
「いらっしゃいませ~、こちらメニューになりま~す」
「どうも」
ロランとリリーはメニューに目を通す。
「へぇ、色々あるなぁ。リリーは何食べたい?」
「う~ん……ピッツァかなっ。このクワトロチーズのやつ!」
「じゃあ僕はパスタにしよっかな。すいませ~ん」
「はぁ~い!」
店員に注文を伝えしばらく待つ。そして目の前に料理が運ばれてきた。
「……お兄ちゃん、これあんまり美味しくない……」
「……うん。パスタもいまいち。ってかそれチーズ一種類だけじゃない?」
「……うん。完全に詐欺だよぉ……」
リリーの悲しそうな表情を見たロランは店員を呼んだ。
「は~い」
「あの、このチーズ一種類だけですよね? クワトロチーズって四種類使うものですよね?」
「え? 何言ってるんですかお客さん?」
「はぁ?」
「うちのクワトロチーズピッツァはチーズの食感が四種類って意味ですよ。固いチーズ、とろけるチーズ、裂けるチーズ、裂けないチーズになってます」
「……もう良い。いくら?」
「お会計ですね。クワトロチーズピッツァとカルボナーラで金貨一枚になりま~す」
「はぁっ!? なんだそれっ!? こんな料理に金貨一枚!? ふざけてるの!?」
「ふざけてませんよ。この町では安い方です。他の店も軒並みこんな価格設定ですよ」
この時ロランは門番の物価が高いという言葉を思い出した。
「……はい、金貨一枚」
「まいど~」
「リリー、出よう」
「うん……」
ロラン達は店を出た。
「なんだこの町、めちゃくちゃだ」
「うぇぇ……、あんな不味い料理久しぶりだよぉ……」
それもそのはず。マライアの屋敷ではいつもロランが調理を担当していた。ロランの腕前は一流料理人だ。
「納得できないなぁ。リリー、先に宿を探そう。そこで何か作ってあげるよ」
「うんっ! ならお兄ちゃんの作るチーズピッツァが食べたい!」
「はははっ、良いよ。行こう」
そして二人は宿を探す。だが安い宿は全て埋まっていて部屋を借りる事すら出来なかった。
「お兄ちゃん……疲れた……」
「なんなんだこの町はっ!? 一晩二人で白金貨一枚って! 村だと家買えちゃうよ!?」
この町は何をするにも大金が必要になるようだった。リリーは買い物すら諦め、すでに帰りたがっていた。
「お兄ちゃん、早く帰ろ……。私この町嫌い」
「同感。早くクルルって人を探そう」
二人はげんなりしながら東地区へと向かい、赤い点滅の場所を目刺した。
「こ、ここ!?」
「いらっしゃいませ。可愛い子揃えてますぜ~?」
赤い点滅が示していた場所は奴隷商人の館だった。
「あの……。ここにクルル・ヤガミって人いますか?」
「クルル・ヤガミ……あ~あ~、いますとも。借金奴隷の男ですな」
「し、借金奴隷? なにしたんですか、その人……」
片目に眼帯をつけた髭面の商人が台帳を見る。
「え~……ギャンブルですな。負けた金を取り戻そうとあらゆる街金から金を借りまくり返せなくなっちまったらしいですわ。んで夜逃げしようとしていた所で捕まり……ああ、その時何人かに怪我させてますな」
「えぇぇ……」
どうやら探し人はとんでもないダメ人間のようだ。
「ちなみに借金の総額っていくらですか?」
「総額ですかい? 買うなら虹金貨百枚になりますが」
「に、虹金貨百枚!? どこの国の国家予算!?」
「借金の他に治療費もろもろ含まれとりますからねぇ。このまま売れなかったら殺処分でさぁ」
「殺処分って……」
「実は危険な奴なんですわ。今は力を封印する手枷を嵌めているから大丈夫ですが……」
強いのは強いらしい。商人の話だと手枷を嵌める際もかなりの怪我人が出たようだ。
「と、とりあえず見せてもらえますか?」
「買われるのですか? 失礼ですが……金はあるんでしょうな?」
「あ、はい。虹金貨百枚ならギリギリ」
「ほうほう! ではこちらへ」
ロラン達は商人に案内され、店内の地下へと降りていくのだった。
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