第37話 ロラン、恋について考える

 マライアと話した翌日、ロランはアレンの所に向かった。


「お前……いや、別に黙っていたわけではないのだが」

「本当にセレナと付き合ってたんだ……。いや、驚いた」


 イリアと予想通り二人は付き合っていたようだ。


「すまん。ちゃんと話そうとは思っていたのだが……なんか言い出しにくくてな」

「いや、そこは特に気にしてないよ。むしろ祝福するよ」

「あ、ありがとう」


 二人が付き合っていると知ったロランは気になっている事を尋ねてみた。


「アレン。アレンはセレナと付き合ってみてなんか変わった事ってある?」

「変わった事? そうだな……」


 アレンはセレナと付き合った事で自身に起きた変化を口にし始めた。


「そうだな、まず……自分の身を大切にするようにはなったかな」

「自分の身を?」

「ああ。前はいつ戦で死んでも仕方ないと思っていたが、付き合ってからは生きあがくようにはなったな。つまり、今まで以上に強く、誰にも負けたくないと思うようになったかな」

「それはセレナを守るため?」


 アレンは首を横に振った。


「いや、悲しませないためだ。家を出た俺は大事な人がいなかったからただ強さだけを求めて修行を続けていた。だがな、セレナという大事な人を得てからは俺自身のためではなく、二人の未来のために強くなろうと思えるようになったんだ。なんていうか……心構えだな 」

「お、大人だなアレンは……」

「はははっ、お前も誰かを好きになればわかるさ。強さにも色々あるんだよ」


 そう言い、アレンは屋敷の門へと向かい、セレナと共に笑い合いながら仲良さそうにダンジョンへと向かっていった。その光景を二階の窓から見ていたロランはアレンに自分の姿を重ねてみた。だが肝心の相手が思い浮かばない。


「しまった……。どうして付き合おうと思ったか聞くの忘れた……。ってそうだ! 父さんがいるじゃないか!」


 ロランは庭で樹の剪定をしていた父親の所へと向かった。


「父さ~ん」

「ん? ロランか、どうした?」

「実は……」


 ロランは父親にどうして母親と結婚しようと思ったのか尋ねてみた。


「どうして……か。実は俺達は幼馴染みでな」

「幼馴染み……」

「ああ。小さい頃からずっと一緒にいてな、他に同年代がいなかったのもあるが……自然と付き合い、そのまま結婚した感じだな」

「じゃあ好きとかじゃなかったの?」

「いや、好きだったぞ? 好きじゃなけりゃ結婚なんてしないさ。それより……」


 父親は梯子から降りてきた。


「そんな事を聞きにきたって事は……ついにお前にも好きな人ができたか?」

「いや……その……好きって感覚がよくわからなくて。恋人の好きと人として好きって違うもの?」


 父親は口を開き唖然とした。


「お前……もうすぐ二十歳になるのに初恋もまだだったのか!?」

「え?」


 父親は目頭を押さえた。


「……そうだよな。村には歳の近い女の子もいなかったし……青春時代は俺のせいで借金地獄……。すまなかったロラン!」

「い、いやっ! 全然大丈夫だし! むしろそのお陰でマライアさんと会えて幸せだったというか……」

「マライア様か……。恋人にするには歳の差がなぁ……」

「そんな事考えた事もないよっ!?」

「そうなのか? 歳は離れてるが見た目は若いし母さんより美人だと──」

「あなた~?」


 後ろに般若がいた。父親はガタガタと震えながら後ろを振り向く。


「ちょ~っと話があるから後で倉庫に来てね~?」

「ち、違うんだ! 今のは一般論というか!」

「ロラ~ン、ちょっとこれ借りてくわね~?」

「あ、はい……」

「や、やめ──助けてくれぇぇぇぇぇぇっ!?」


 父親は首根っこを掴まれ引きずられていった。


「……久しぶりに見たなぁ、母さんの般若モード……」


 ロランは手を合わせ二人を見送るのだった。


「はぁぁ、結局何もわからなかったな。あとは誰に聞けば……あ、そうだ! ダニエル先生なら!」


 ロランは空へと浮かび上がり王城に向かった。


「先生~!」

「おや? ロラン君ではありませんか。どうしました?」


 ダニエルは国王の執務室で国王を監視していた。ロランはダニエルに恋とは何か尋ねた。


「なにっ!? ロ、ロランよ! お主……誰か好いたのか!?」

「あ、いや……実は……」


 ロランは国王にイリアから告白された事、自分は恋を知らない事を話した。


「そうか……。恋を知らぬか……。ダニエル、少し休憩にしよう。これは由々しき事態だ」

「そうですねぇ。では睡眠時間を削りましょうか」

「……良かろう。それでも得るものは大きいからな!」


 そして国王はロランとティータイムをしつつ、恋について話しだした。


「まずは恋について語ろう。と言ってもな、私は親が決めた婚約者がいたのでな。恋らしい恋はしておらん」

「そうなんですか?」

「うむ。王族や貴族ではな、家督を継ぐ者が恋をして結婚する事の方が珍しいのだよ。何故かわかるか?」

「……いえ」

「家督を継ぐ者は次代へと家を残さねばならぬ。貴族は貴族同士の繋がりや家の繁栄のために結婚相手を親が決めるのだ。だがな、最初こそ愛はないだろうが、結婚し一緒に暮らす事で愛が生まれるものなのだよ」

「愛……ですか」

「うむ。妻を慈しみ一生共にありたいと願う。それは世間の民が恋人である期間となんら変わりない。結婚してから恋する事もあるのだよ」

「む、難しいです」


 国王は茶をすする。


「う~む……。簡単にいうとだな、一緒にいて楽しく、胸がそわそわするのが恋だ。他にも一目見て恋に落ちる事もある」

「あ、イリア様は一目惚れって言ってました!」

「そう。ある日突然始まるのが恋だ。その人とずっと一緒にいたい、楽しい日々を過ごしたい、そう思えばもうそれは恋なのだよ」


 ダニエルは後ろでうんうんと頷いていた。


「じゃあ……全く知らない相手から告白された場合はどうしたら良いんでしょうか?」


 国王の目がキランと光る。


「それは付き合うしかないだろ」

「……へ?」

「付き合いながらお互いの事を知っていけば良い。それで将来結婚しても良いし、合わないと思ったら別れたら良いだけの話だ」

「そ、そんな適当な……」

「適当ではない。恋人の期間とは結婚するための前準備の時間なのだ。恋人の期間でずっと一緒にいたいと思った相手とするのが結婚なのだよ」

「なるほど……。僕、ちょっと重く考え過ぎてたのかもしれません。そうですよね、付き合いながら知っていけば良いんですね。国王様、忙しい中わざわざありがとうございます!」


 そう言い、ロランは頭を下げた。


「なに、気にせんでも良い。良い息抜きになったわ。ロランよ、修行も良いが恋人のいる暮らしというのも楽しいものだぞ?」

「はいっ! ありがとうございましたっ!」


 ロランは頭を下げマライアの屋敷へと戻っていった。 そして執務室では。


「よぉぉぉぉぉぉし! よしっよしっ! これで次の王はロランに決まりだなっ! ふははははははっ!」

「やってしまいましたな。マライアはロラン君をかなり気に入っているので妨害が予想されますが」

「んなもの知らんわっ! 人の恋路を邪魔するような奴は馬に蹴られてしまえばいいっ! イリアは妻に似て美人だからなぁ~……。いやぁ、今から孫が待ち遠しくてたまらんわ。そうだ! 一度妻とマライアの屋敷に顔を出しておくか! ダニエル、なんとかスケジュールに都合つかぬか?」

「一週間睡眠時間を削ればなんとか」

「はははははっ! ならば寝ずに働いてやるわっ! この国の未来は明るいのだからなぁ? はははははっ!」


 くたびれていた国王だったが、ロランとイリアの仲を知り、突如仕事に精を出し始めるのだった。

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