第29話 強襲

 グレイが千六百万の軍勢相手に無双している最中、ロラン達は平原を大回りし、今敵陣の後方に辿り着いていた。


「さて、どうする?」

「ウチに任せるっス。【探知】!」


 ジェードが探知を使いテント内の状況を探った。


「見えたっス。テントの中央に皇帝とあの宰相がいるっス」

「わかった。セレナ」

「はい?」

「セレナは左側を。僕は右側をぶっ飛ばす。で、その混乱に紛れてアレンは宰相を。ジェードは皇帝を確保してきて」

「わかった」

「了解っス!」

「よし、セレナいくよ」

「はいっ!」


 セレナはテントに向かい杖を構え、ロランは左手を前に突き出し構える。


「いっけぇぇぇっ! 聖なる光の刃っ!!」

「はぁぁぁっ! 【小破壊】ッッ!!」


 二人の同時攻撃により敵本陣のテントが吹き飛んだ。


「な、なんだぁぁぁっ!?」

「騒いだら殺すっスよ? チェックメイトっス」

「うぐっ!」

「へ、陛──」

「貴様も騒いだら殺す。これは脅しではない。何なら片腕を落としてやろうか?」

「ひ、ひぃぃぃっ!」


 ジェードとアレンは攻撃と同時に駆け出し、土煙に紛れながら皇帝と宰相の身柄を確保した。ジェードは皇帝を地面に組伏せ喉元にクナイを押し付け、アレンは地面に転がした宰相に痺れ薬を飲ませ行動不能にさせた。


「へ、陛下っ! おのれ貴様らぁぁぁっ! 後ろからとはなんと卑怯なっ!!」

「今お助けいたしますっ!!」


 そこにロランがいち早く駆け付け、アレンジ達の前に立つ。


「戦に綺麗も汚いもないでしょ。負けたら全てを失うんだ。武器を捨てろ。そしたら命まではとらない!」

「ふざけるなぁぁぁぁっ! 陛下を解放しろっ!」

「くっ!」


 数人の兵士がロランに向かい斬りかかってくる。ロランはその兵士達に向け軽く剣を振り、剣圧だけで兵士達を吹き飛ばした。


「「「「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」

「なっ!? 触れてもおらぬのにっ!?」


 皇帝はロランを見て驚いていた。


「そうか! 貴様が単身で十万を退けた者だなっ!」

「そうだよ。さあ、戦の終わりを告げてもらおうか。この戦、グロウシェイドの勝ちだ」

「ふざけるなよ若造。戦ってもおらぬのに負けなど認められるかっ! 私と立ち合え!」

「……良いよ。でも先に兵を退かせるんだ。そしたら一対一で戦ってあげるよ」


 皇帝はニヤリと笑った。


「これで勝った方が勝ちだ。異論ないな?」

「そっちがそれで良いなら」

「私は構わん。強者と戦う事が私の楽しみだからな。こいつを退けてもらおうか」


 ロランがジェードに目配せをし、皇帝を解放させた。


「ふぅ……っ、では中央で殺り合おうか」

「どこでも良いよ」


 ロランと皇帝が並び中央へと向かう。その後ろでアレンが宰相を引きずり、他の二人もついていく。


「へ、陛下!?」

「案ずるでないっ! これより私とこやつが全てを賭け一対一で戦うっ! 下がれっ!」

「「「「はっ!」」」」


 その様子をグロウシェイド軍本陣にいる国王が知り、国王とダニエルも急ぎ中央へと向かった。


 そして一人でエイズーム帝国軍を圧倒していたグレイがアレンの引きずる宰相に気付いた。


「おいおい、まさか殺ってねぇよな?」

「薬で麻痺させているだけだ。あと一時間もすれば回復するだろう。ほら」

「おっと」


 アレンはグレイに向け宰相を放り投げた。


「ははっ、会いたかったぜぇ~おい? お前は俺の手で殺す。一時間後を楽しみにしてな」

「ぐ……あ……がぁ……っ」


 宰相は涙目になり地面に転がされている。


「ロラン!」

「ロラン君っ!」


 少し待つと国王とダニエルが中央に到着した。


「何が始まるのだ?」

「はい。今から僕と皇帝で一対一の戦いをします。この戦いで勝った方が戦の勝者となります」

「お、お前と一対一!? 気でも触れたか!?」

「なんとまぁ……」


 国王とダニエルは皇帝に憐れみの視線を向けた。


「強者と戦う事こそ私の人生だ。近頃骨のある奴がいなくてな。そこに単身で十万もの軍勢を壊滅させた怪物が現れたと聞こえてきた。これは戦うしかないだろう?」

「戦争狂め……。ロランを甘く見るなよ。ロランは我が国……いや、大陸一の強者だ!」

「ほう? それは楽しみだ。だが私もただで負ける気はないがな」


 国王と皇帝が視線を交える。お互い一歩も引く気はないようだ。


「ふん、王の癖に戦いもしない貴様になど興味はないわ。そこの者、ロランと申したか。さあ、私と立ち合え。お互いの全てを賭け一対一の真剣勝負だ」

「なんだとキサ──むぐっ!?」


 ダニエルが空気を読み国王を引きずり下がった。そしてロランと皇帝を囲むように帝国兵が輪になりリングを作り上げていく。


「一つ提案がある」

「なに?」

「この戦いは徒手空拳でやらぬか?」

「素手って事?」

「そうだ。打投極、それで勝った者こそ強者よ。武器なんぞ邪道。まぁ、自信がないなら使っても良いが?」

「……構わないよ。素手で」

「ふっ、血が滾るわ。では命を賭けて殴り合いをしようか」

「来いっ!!」


 二人の間に緊張が走る。まず先手を取ったのはロランだ。ロランは皇帝のふくらはぎに重い蹴りを当てる。


「ぐぅっ!? な、なんだっ!?」

「そらぁっ!」

「くっ!!」


 蹴った足が酷く痛む。まるで鋼鉄でも蹴ったかのようだ。皇帝は平然と笑いながらロランに向かい右ストレートを放つ。ロランはクロスガードで皇帝の拳を受けたが、一メートルほど後方に吹き飛ばされた。


「なんって重い攻撃だっ!」

「はははははっ! まだまだ行くぞっ! はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「くっ!」


 受けるのは不味いと考えたロランはフットワークで皇帝の攻撃を躱わしていく。


「ほう、躱わすか。だが躱わしてばかりでは勝てんぞ!!」

「くそっ! ギフトかっ! ダメージが入らないっ!」


 ロランは躱わしながら何度か攻撃を当てていくが、皇帝はそれでも平然としたまま反撃してくる。普通の人間ならロランの攻撃を一発でも受けたが最後、爆散しているはずだ。


「くくくくっ、私のギフトは【鋼鉄化】だ。このギフトは私が触った事のある最硬の金属と同等の硬さを得る事ができる。例えば……こういう事もできるぞ?」

「なっ!?」


 皇帝の右手が剣になり、左手が盾になった。


「徒手空拳じゃないのかよっ!」

「徒手空拳ではないか。これは私の腕なのだからな。はぁぁぁぁぁぁっ!!」

「くっそっ!!」


 攻撃が通らないほどの硬度による斬撃がロランに降りかかる。どうにか回避はしているが、このままではいずれ当たる。


「おいおい、あいつの攻撃が通らねぇ金属ってなんだよ? そんなのあんのか?」

「むぅ……もしや……」

「あん?」


 いつの間にかグレイの隣にいた国王が口を開く。


「まさか神の金属といわれるオリハルコンでは……」

「オリハルコン?」

「うむ。オリハルコンは世界一硬い金属だ。勇者の剣に使われている以外存在しておらぬ」

「んじゃあ奴は今全身勇者の剣と同じ硬さで、同じ材質の剣と盾を持って戦ってんのか……。ヤバくないか?」

「うむ。非情に不味い。勇者の剣は勇者だから振るえるのだ。だが奴は勇者でもないのに勇者の剣を振っている……! 貴様っ! 卑怯だぞっ!」


 皇帝は国王に向けこう言い放った。


「何が卑怯だ。私は私のギフトを使っているだけだ。大陸一がどうした。一人で十万など私でも破れるわっ! 今から貴様の頼みの綱であるこいつを細切れにしてやるから黙って見ておれっ! ふははははははっ!!」


 皇帝は自身の勝ちを確信しつつ、右腕を振るうのだった。

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