第30話 決着

 勇者の剣と同じ強度になった皇帝相手に攻めあぐねいているロラン。どんなにフルパワーで殴り付けても皇帝にはダメージ一つ通らない。


「ロラン! 俺と代われっ! 俺の【覇気】なら一瞬で終わらせられるっ!」

「ふははははっ、そうだ。代わったらどうだ?」

「代わるかっ!」


 ロランは必死に考える。数多あるギフトで何か通じる攻撃を出せないものかと。


「これならどうだっ!! 【大破壊オーバードライブ】ッッ!!」

「「「「ぐぅぅぅぅぅぅっ! 飛ばされるっ!」」」」


 皇帝を中心に大爆発が起きる。


「殺ったか!?」


 土煙が晴れると目の前には深いクレーターが現れ、そこに平然と皇帝が立っていた。


「効かぬなぁ? もう抗う手段はないのか?」

「傷一つ付けられないなんて……!」

「ふん、つまらんな。いくらギフトがあろうと使いこなせないのならないのと同じだ。未熟者め」

「くっそ……! 考えろ……、まだ何か手があるはずだっ!」


 ロランは皇帝を見る。皇帝は硬度こそオリハルコンと同等だが、見た目は普通の人間で、呼吸もすれば間接も曲がる。だが恐らく間接破壊は通じないだろう。攻めるポイントは呼吸、つまり内側だ。


「よしっ! 【水球】!!」

「ぬぉっ!? 小癪なっ!!」


 ロランは皇帝の頭目掛けて水魔法を放つ。このロランの攻撃を皇帝は初めて避けた。


「避けた? やっぱりこれであってるんだ! はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぬっ! くっ! んがっ!? がぼっ!!」


 ついにロランの攻撃が皇帝を捉えた。ロランの放った水球は皇帝の全身を包み、そのまま固定される。


「っしゃあ!! いくら硬かろうが呼吸してる限りアレからは逃げられねぇっ! 殺っちまえロラン!!」

「よし……っ、ここから……ギフト【沸騰】!!」

「がぼっ!? ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!?」


 ロランは包んでいた水魔法にギフトを上乗せし熱湯に変えた。皇帝は身体の内側を熱湯で焼かれもがく。


「まだまだぁぁぁっ!! おまけに雷魔法だっ!!」

「ごぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 ロランはさらに雷魔法を上乗せし、水球に電撃も加える。


「……え、えげつないっス」

「ダニエルよ……、あれどう思う?」

「回避不能ですな。いくら硬くとも内側は通常の人間。勇者の剣は無機物だからこそ最強の剣なのです。この勝負……ロラン君の勝ちですな」


 やがて皇帝の身体からがくんと力が抜け、水球の中に浮かんだ。


「へ、陛下が負けた……? あの陛下が……!?」

「陛下が殺られたっ!?」


 ロランは動かなくなった皇帝を確認し、水球を解除した。皇帝は力なく地面に伏し、指一つ動かない。


「勝った……のか?」


 ダニエルがゆっくりと前に進み皇帝の首に手を当てる。


「脈がありませんね。ロラン君の勝ちです」

「「「「っしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ! グロウシェイドの勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」


 グロウシェイド軍から勝利の雄叫びが上がる。 その雄叫びにロランは安堵した。


「──っ、はぁぁぁ~っ! 強かったぁ~……。まさかあんな方法で自己強化してくるなんて……」

「よくやったぞ、ロランよ」

「え? あ、はいっ!」


 国王に声を掛けられたロランは胸に拳を当て敬礼する。


「この戦に勝てたのはお前達五人の力だ。誇って良いぞ?」

「いえっ! エイズーム皇帝と戦ってみて僕はまだまだ未熟だと思い知らされました! もっと鍛えてオリハルコンだろうと砕けるようにしますっ!」

「……お前は人間をやめるつもりか?」


 そしてダニエルも声を掛けてきた。


「ほっほ。ロラン君、頑張りましたね」

「先生っ! はいっ、ありがとうございますっ!」

「君は……いえ、君達五人はグロウシェイドの英雄です。その中の三人が私とアリエルの学校から輩出された事はとても誇らしい事です。そして、これに慢心せずこれからも己を律するのですよ?」

「はいっ!」


 そこにグレイが宰相を縄で縛り引きずってきた。


「よう、やりやがったなロラン」

「グレイ! 一番大変な役を回してごめんね」

「いや、俺よりお前だろ。あの皇帝に比べたら雑兵の相手なんぞ大したことねぇって。それから国王さんよ」

「なんだ?」


 グレイは宰相に巻き付けた縄を引きながら国王にこう告げた。


「バイアラン帝国は元の姿に戻す。こいつの身柄は俺がもらっていくが構わないよな?」

「うむ。そういう約束だからな。バイアランの地はそなたらのものだ。詳しい事は落ち着いてからまた話そう」

「ああ。じゃあ俺はもう行くぜ。国に戻ってこいつを処刑しなきゃならないからよ」

「うむ。そなたにも助けられた。何かあったらいつでも頼ってくれ」

「ああ、今後ともよろしく」


 そうしてグレイは宰相を引きずりながら馬で帰っていった。


 そして残されたのはエイズーム帝国軍達だ。国王はその兵士達に向かいこう宣言した。


「戦は終わりだ! これよりエイズーム帝国は解体、グロウシェイド王国に統合される! 従う者は武器を納めよ! 従えない者は我が国の英雄達と戦って意思を示せっ!」


 帝国兵の間にどよめきが走る。


「あんな化け物に勝てるかよ……」

「勇者より強い奴と戦えるかっ!」

「従う他ないようだな……」


 兵士達は敗けを受け入れ武器を納めるのだった。


 こうして戦はグロウシェイド王国の勝利で幕を下ろし、グロウシェイド王国は大陸の覇者となった。そして戦から半年ほどかけ、エイズーム帝国のあった地に為政者を送り、体制を整えた。国王はエイズーム帝国皇帝の親族を処刑する事なく、新たな体制に組み込む。これによりエイズーム帝国国民の反感を抑え、早期に国大陸を平定した。


 そしてバイアラン帝国では新たな王、グレイ・バイアランが誕生し、約定通りグロウシェイド王国と対等な関係での同盟を締結した。この同盟に一度は国を失ったバイアラン帝国国民は大いに沸き、新たな皇帝を讃えた。


 グロウシェイド王国は大陸一の大国となり、覇者となったが、大陸にはまだ小さな国がいくつかある。だがそれらの国は戦を好まない商業や農業を主とした国々であり、グロウシェイドと敵対する気は全くない。むしろどの国もグロウシェイドと貿易関係にある。


「ダニエルよ……、忙しくてかなわんのだが」

「何を言っておられますか。私などすでに引退しているにも関わらず働いているのですぞ。少しは自分で何とかしなさい」

「ま、まだ働けと!? うぅぅ……私も引退したいぞ……」

「どうぞと言いたいところですが……あなたには後継者がいないでしょう?」

「……ロランに継がせようかと思うのだが」

「それはマライアが許さないでしょう。ロラン君は彼女の執事ですからねぇ」

「王命とかで……」

「ジェードとアレンに暗殺されても構わないならお好きにどうぞ」


 王はガックリと肩を落とした。


「なぜマライアの所にばかり優秀な人材が揃っておるのだ! 腑に落ちんっ!」

「……人徳でしょうなぁ。ロラン君の」

「陛下! 至急この書類の確認を!」

「ぬがぁぁぁぁぁっ!?」


 王は叫びながら机に向かうのだった。

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