第28話 開戦
エイズーム帝国本陣のテントに戻った皇帝はすぐに配下を集め陣の配置を変えた。
「なぜ陣を?」
「うむ。向こうにグレイ・バイアランがいた。奴のギフトは【覇気】だ。一ヶ所に固まったままだと一気にもっていかれる恐れがある。小隊を八つ、二百万ずつにし、本陣の首尾に四百万残せ」
「ははっ!」
皇帝は強かだった。伊達に戦ばかりしていない。これまでの経験からこの戦は苛烈なものになると肌で感じていた。
「小隊は円陣にし、一つ破られたら次に交代せい。敵を休ませるな」
「「「「ははっ!」」」」
こうして万全の体制で戦に臨むエイズーム帝国に対し、グロウシェイド王国側はというと。
「さて、こちらはどう動くのだロランよ」
「はい。こっちはまずグレイを使います」
「うむ」
「グレイの【覇気】で敵を減らしつつ、アレンの【気配遮断】で本陣に切り込み、壊滅させます」
「私らはどう動けば良い?」
「グレイの後ろに百万ほどつけ、残り百万は本陣で待機させましょう。敵は数が多いため、恐らく波状攻撃を仕掛けてきます。こちらが疲れきったところで後ろに控える本陣が突撃してくるでしょう。まぁ、グレイの【覇気】はギフトなので一切疲れないのですが」
グレイは手のひらを拳で叩き気合いを表す。
「楽勝だな。全軍突撃されたら範囲が及ばなかったかもしれんが……向こうは俺を警戒するあまり隊を小分けにしやがった。宰相の入れ知恵だろうが……ミスりやがったな。一隊二百万なら秒で倒せるわ」
「なんとまぁ……。なら私らがグレイ殿の敵なら一瞬で全滅ではないか」
「いや、【覇気】は自分より弱い者にしか通じないからな。もしロランと相対したら俺の負けだ。そっちの三人も精々動きを止めるくらいか。グロウシェイドは化け物の巣窟だぜ」
グロウシェイドで戦いに出るのはロラン達五人だけだ。だがその五人だけでも十分釣りが出る。
「ロラン、宰相は見たな?」
「え? うん」
「あいつは俺が殺る。他は好きにして良いが、あのクソ野郎だけは残しておいてくれ」
「わかった」
そして夜が明け、平原に緊張が走る。
エイズーム皇帝は本陣から敵陣を睨み、口角を上げた。
「やはり先陣はグレイ・バイアランか。敵は二百万を二つに分けたようだな。だが……こちらの小隊は一つ二百万だ。休みなく襲い掛かる攻撃に耐えられるか? くくくくくっ」
そしてグレイ率いる部隊。
「おー……ロランの予想通りだな」
「あのぉ……本当に我々は立っているだけで良いんですか?」
「あん? おう。だが俺より前に出るなよ? 巻き添えで死ぬぜ?」
「は、はっ!!」
グレイは笑いながら敵陣を見る。
「敵は千六百万か。これで少しはあいつに近付けたら良いんだがなぁ。っしゃ、そろそろ時間だ。お前ら、構えるだけ構えとけ!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
そしてグロウシェイド王国軍本陣。
「では陛下。我々はここから気配を消し、大回りしながら敵本陣の裏へと回り込みます」
「うむ。しかし……いくら気配遮断でも見つからずにたどり着けるのか?」
「はい。ギフトにも習熟度があり、本人の技量で位を上げる事ができるようです」
「なんと……!」
「私の気配遮断はレベルを犠牲にし、【隠密行動】へと進化を果たしました。このギフトを使えばどんな相手だろうと俺を視認できなくなります」
「レベルを犠牲に……か。ならばあまり無理はしないようにの、アレン」
「ははっ!」
アレンはロラン達三人と手を繋いだ。
「もうすぐ正午だ。グレイが最初の部隊を撃破した瞬間に合わせこのテントを出る。心の準備は良いか?」
「うん、いつでもいけるよ。アレン、セレナ、ジェード、うっかり宰相を殺さないように気をつけてね。とくにセレナ」
「わ、わかってますよ!」
「にしししっ、じゃあ行くっスか。ウチらの敵は四百万、狩り放題っスね~」
そして太陽が真上に昇り、両陣営からドラが鳴り響いた。
「いけぇぇぇぇぇぇぇっ!! グロウシェイド軍なぞ踏み潰してしまえぇぇぇぇぇぇいっ!!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
「っしゃ! 殺るぞっ!!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
「俺達も行くぞ。お前達、絶対に手を離すなよ?」
「「「はいっ!」」」
いよいよ戦が始まった。エイズーム帝国側は八つに分けた部隊の一つをグレイの小隊へて向かわせる。
「「「ラァァァァァァァァァァッッッ!!」」」
「ウゼェッッッ!!」
「「「アガッッッ!?」」」
グレイの咆哮が平原に響き渡る。そしてこのわずか数分で二百万の兵士が絶命した。
「なぁっ!? ぜ、全滅だとっ!? くっ、休ませるなっ!! 次の部隊っ!」
「「「「オォォォォォォォォォォッ!!」」」」
陣がリボルバーのように回転し、次の部隊がグレイの正面に立つ。
「ふっ……ふははははははっ!! 食い放題だぁっ! どんどん来いやオラァァァァァァァッ!!」
「「「「グアァァァァァァァァッ!?」」」」
「えぇいっ! ならば二部隊同時に行けぇいっ!! 両側から挟み撃ちにしろっ!!」
いきなり二百万もの軍勢を失った皇帝は怒りを露にし、檄を飛ばした。兵士達は目の前で一瞬にして二百万もの仲間達が絶命する場面を目の当たりにしていたが、皇帝の意に背いた瞬間に帝国での立場がなくなる。それを恐れてか、この無謀な指示に従っていた。
「俺の【覇気】はよぉ……視界に入ったら発動するんだぜ? 最も集団戦に向いてんのが俺のギフトよ。オラァッ! 死にてぇ奴は前に出てこいやぁっ!!」
「く、くそっ! 行きたくねぇぇ……っ!」
「おいっ! 後ろ詰まってんだから前出ろやっ!」
「うっせぇな! ならお前が行けよ! 行ったら死ぬんだよっ!!」
グレイの発する圧と皇帝の放つ圧で板挟みになっている兵はどんどんと士気を下げていき、戦場が鈍化していった。
「よし、敵は混乱し始めたな。これで少しの間膠着状態になるはずだ。ロラン、一気に裏に回るぞ」
「うん、急ごう!」
ロラン達は敵から身を隠しつつ、敵陣後方へと回り込むのだった。
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